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第8話 旅の始まり 其の三

   ふと竜紅人(りゅこうと)が前を歩く香彩(かさい)(りょう)を見れば、鵺が何故堕ちてきたのか、何を探しているのかと、自分の憶測を話している。  周りの気配や状況を見ながら話をする療に対して、香彩は夢中になれば周りが目に入らなくなる傾向があった。 「香彩、話に夢中になるのはいいが、前見て歩け前! 転ぶぞ!」 「また、そうやって僕を子供扱いするし」 「子供だろうが、実際」  竜紅人の言葉に、香彩がむっとした表情を見せる。 「……あの、僕今年でもうすぐ十六になるんですが」 「何歳になろうが、俺にとってはお前は子供だっつーの」 「……同じ歳のくせにー!」  香彩は背伸びをして体全体で抗議をしている。竜紅人の身長が香彩の頭ひとつ分ほど高いからだ。  その動作そのものが子供だというのに、と竜紅人は思ったが言うと香彩の機嫌が悪くなりそうだったので黙っておくことにする。 「確かに肉体年齢は一緒だがな、精神的な年齢が違うだろうが、全然」  竜紅人の言葉に横で顛末を面白そうに見ていた療が、思わず吹き出した。 「ひ、ひど……」  香彩はあたかも衝撃を受けたかのような顔をして、竜紅人から視線を逸らす。  竜紅人は大きくため息をついた。 「わざとらしいって、お前」 「……何で分かるんだろう?」  香彩にとって、表情を読まれたり、次にしようとしている行動が何故か竜紅人には分かってしまうことが、どうも面白くないのだ。  少し肩を落として、拗ねたような表情を見せる香彩に、竜紅人は思わず吹き出しそうになる。 「当たり前だ。何年お前を見てきたと思ってるんだ? 俺はお前が乳飲み子の頃からお前の面倒を見てきているんだ。だいたい、昔のお前はすぐ何もない所ですぐ転んで……」 「だーっ! 分かった、ちゃんと前を見て歩くから! 転ばないように前向くから! だから僕の昔話はやめよう! ね? ね? 竜紅人」  この様子に、今度こそ声に出して大笑いをした療である。 「そうだよね、香彩。十五にもなって、小さい頃のお前はこうだったって話されたら、たまんないよねー?」  オイラだったら即効やさぐれてるよ、と療が言う。 「笑いながら言われても、説得力ないんだけど」 「ほら、前見ろって! 本気で転ぶぞ、お前は」 「もう! 分かっ……!」  突如、竜紅人の視界から香彩が消えた。  ずしゃあと派手な音を立てて、街道の石板の上を滑るようにして、香彩が見事に転倒したのだ。 「ほぉうら、言わんこっちゃない」 「だ、大丈夫? 香彩」 「……ちょっと痛い」
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