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第13話 紅麗 其のニ
歯切れの悪い物言いに、療 と竜紅人 が無言で香彩 を見る。
視線という名の圧力、眼力のようなものを香彩は感じ取った。
喧噪の中にいるはずの自分達が、まるで時間の止まった空間の中に放り込まれたかのように、音というものが感じられない。
それが療と竜紅人の『力』だと分かるのに、香彩は数秒かかった。香彩も同じように眼力を二人に返した途端、日常の喧噪とした音が戻ってくる。
「……ごめん、僕が悪かった」
「だよなぁ? あんまり無邪気に聞いていいことじゃないよなぁ? 特に療の場合なんか、下手をすると殺されるぞ」
脱力気味に言う竜紅人に、療が物騒なこと言わないでよと反論する。
「いくらお前でも、それだけは教えられないから。お前も将来的には縛魔師独特の情報経路を知ることになるだろうけど、それは俺達も知らないし、知るとどうなってしまうのかも分かってる。共に在る為には、決して知ってはいけない部分もあるんだ、香彩」
諭すように言う竜紅人の言葉に、香彩はそうだねと呟いた。
療も竜紅人も情報自体を隠しているわけではない。必要であれば提示もするし、お互いに持っている情報と知識を交換して、相談することもある。
だが、それがどういう経路で入手したものなのかは、決して話すことはないし、知られてはならないものだ。
情報の流出は己の生命に関わることだということを、竜紅人と療は生まれながらにして知っている。情報経路を知ってしまった者を全力で排除するだろう。
そして人の社会の中でも、同じことだ。
噂は時に真実を凌駕し、真実に成り代わる場合もある。
その時に正しい情報を得て、見極めることが出来なければ、翻弄される。
社会的地位のある人間がそうなってしまえば、部下は決して上司を認めはしないだろう。情報を聞く度におろおろする上司に、誰がついていくだろうか。人の中には噂をわざと作りだし、情報を撹乱させる者もいるのだから。
「……駄目だなぁ、僕。全然駄目だ」
「お前が経験不足の未熟者だってぐらい、端から知ってる。だからこうやって『外』に出してるんだろうが」
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