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第18話 紅麗の夜 其の一

   姐貴(ジエ)が用意した別宅は、紅麗の中心街から少し離れた、雑木林の中の小道沿いにある二層の楼閣だった。ここでは魔除けである『紅麗』の灯りがふんだんに焚かれていて、夜の林の小道だというのに視界が明るい。  またこの辺りは富者の別宅や専用の私室などが集まっている地域であるためか、個人用の高価な『紅麗灯(くれいとう)』と呼ばれている、細くしなやかな竹の棒を丸く組み、薄い紙を貼り巡らせて、その中に『紅麗』を入れて燃やしたものを手に持って歩いている者も多かった。  姐貴は別宅を管理している者に、寝床と食事の準備を命じると、共に食事が出来なくて残念だねぇ、と言いながら、部下に迎えられて早々に紅麗の中心街へと戻っていった。  中心街は夜から明け方までが、特に賑わう時間帯だ。姐貴の宿も今から書き入れ時だろう。  色街界隈の猛者(もさ)達も彼女の指揮の下、紅麗の街の見廻りに動き始める。  活気づく時間帯は、問題や小競り合いも多い。猛者達が目を光らせている為か、大事になることはないが、それでも無ではないのだ。場合によっては(とう)である姐貴が出て、賊の討伐に当たることもあるという。頭も猛者達に負けず劣らず猛者であるのだ。  竜紅人(りゅこうと)食処(しょくどころ)で用意された夕餉(ゆうげ)を頂きながら、物思いに更けていた。  長卓子(ながつくえ)の上に人数分の食事が次々と運ばれてくる。  竜紅人の隣には香彩(かさい)が、そして香彩の向かいに(りょう)が座るというのが毎回の定番の座り位置だ。麗城で食事を取る時も同じで、ここに更に二、三人、増えることもあり、とても賑やかだ。  それが三人になったところで、特に賑やかなのが香彩と療のふたりなので、やかましさは城にいる時と対して変わりはない。もっとも、竜紅人、香彩、療の三人以外の同席者からすると、竜紅人も同類である。  香彩と療はたわいもない話をしながら、次々に用意された夕餉を平らげていく。その様子を見ながら、竜紅人は静かに夕餉を食べていた。どうもこの三人で食事や行動をしていると自分は無意識に見守る側になるらしい。きっと香彩と療を止める人間が、竜紅人しかいないからだろう。 「竜ちゃん、どうしたの? 何か静かだけど」 「本当だね、どうしたの?竜紅人」  夕餉をほぼ平らげて、締めの香茶を飲み始めていた香彩と療が言う。  同じように香茶を飲んでいた竜紅人は、それを飲み干すと椅子を引いて立ち上がった。 「ほら、食べたのならもう休むぞ。明日は早朝に出発する」  不思議そうに顔を見合わせている香彩と療に一瞥して、竜紅人は食処から出て行った。
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