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第19話 紅麗の夜 其のニ
案内されたのは二層目にある来客に使われる部屋だった。
紅の柱と梁、漆喰の壁に合う深みのある茶色の調度品や家具が置かれ、この辺りでは珍しい寝台があった。また見事な装飾が彫られた格子窓は、部屋の空気の入れ替えのためか今は開けられていた。
ここから漏れる蒼い光は、月の光だろうか。
中央の卓子 には小さな『紅麗灯』のほのかな灯が置かれていた。
時折格子窓から入る緩やかな風が、炎を揺らす。
竜紅人 は少々乱暴に椅子を引いて座ると、まるで力が抜けていくかのような溜息をついた。
部屋は贅沢にも個別に用意されてるようだった。それが却ってありがたいと竜紅人は思った。どうも香彩 と療 を見ていると思考を乱される何かがあるらしい。自分の考えが纏まる前に、心を配り叱責してしまうのだ。
(……俺もまだまだ経験不足、か)
実年齢は百十五歳の竜紅人だが、実際には動き始めてからまだ十五年しか経っていない。百年間は繭の中でたゆたいながら知識を蓄えていたに過ぎず、実際の経験は肉体を得てからの十五年間だけだ。
実経験がなく知識が豊富の状態は、空虚で危険だ。竜紅人はそれを身を持って味わった。
味わって知ったからこそ、竜紅人は香彩を城から連れ出し、色々と経験させようとした。
だが、それも日帰りや長くて一日。旅という形で香彩が城を離れるというのは、実のところこれが初めてだった。
──やつらは周到だ。有名な役職付きの子供が、夜に『外』に出たとなれば、どうなるかは明白だろう?
姐貴 の言葉が頭をよぎる。療は揶揄と捉えたように見せかけていたが、言外を分かっているだろう。だから何も言わず、竜紅人の最終的に伝手を頼る方法に従ったのだ。
竜紅人は再び大きく溜息を付いた。
ふと。
竜紅人は部屋の入口の引き戸を開ける。そして辺りを見回して再び引き戸を閉めた。
誰もいなかった。
そのはずだ。
竜紅人は気配を探る。香彩と療は案内された部屋に別々にいた。部屋の中の気配を探っても何もない。
(だが……確かに)
呼ばれた気がした。
とても懐かしい声で呼ばれたような気がしたのだ。
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