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第23話 碧麗 其の一

   楼閣の管理人に姐貴(ジエ)への礼を託し、竜紅人(りゅこうと)の宣告通り、三人は早朝にここを出た。  空が白み、東の山の稜線が輝き始めると、雑木林のどこからともなく、鳥の鳴く声が聞こえ、きんと澄んだ空気の中を切るように飛び立つ。  富者の別宅の沢山ある雑木林を抜けると、紅麗の中心街に出る。  昨日の喧騒が嘘のように静まり、辺りには散らばった塵を片付ける者達が数人いるのみだった。だがそれもつかの間のことだろう。もう少し陽が昇ると、今度は朝市が始まり、再び街は活気づく。  三人は街道沿いに南に進路を取って歩き始めた。  香彩(かさい)の歩調に合わせて、約一刻程で紅麗を抜けた。  街外れの小さな屋台で軽く朝食を済まし、一行は更に南下する。  紅麗を過ぎるとこの辺りの景色は平坦な草原となり、歩いている方向の彼方には、大きな山脈が見えた。  麗国は北と南に大きな山脈がある以外は、なだらかな平原が広がり、大きな河がある。北山脈から流れて、国の中央でくねりと曲がり南西の海へと流れる麗川は、川魚が豊富で、海が遠い中央平原に住む者にとってはなくてはならないものだ。  この視界がきく平原も、南へ行けば大きな森にぶつかる。  南の山脈を護るかのように広がるこの森は、名を『愚者の森』といい、国土を四つに割ったうちの一つ分にも相当する程広い森だった。  野生の獣や小物の魔妖の住み処となっており、またこの森の西側には鬼族(きぞく)と呼ばれる魔妖の里があった。  鬼族は雷鬼、風鬼、炎鬼、土鬼の順に主従関係があり、魔妖の中では中堅だが、雷鬼族だけは『大物』に分類されるほど、その力は強く、妖力も甚大だという。  比較的人と同じような生活を送り、姿も頭の角以外は人とほとんど変わらない。  だが元来鬼族は人喰種(ひとくいしゅ)である。  魔妖の王と交わされた古の契約より、人里を攻めるようなことはしないが、鬼族の縄張り範囲内に入り込んだ人間は、容赦なく狩られ食糧となる。  人々は森の西側には滅多なことでは近づくことはなかったが、鵺の登場で街道を迂回せざるを得なくなった旅の者は、鬼族の縄張り範囲内に近い迂回道を利用している。道といっても数少ない人の利用者とそして、獣らが何度も踏みしめた獣道のようなものだ。
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