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第24話 碧麗 其のニ

 日がやがて南中より西に傾いた頃、一行は次の目的地だった碧麗(へきれい)という宿場街に到着した。  この宿場街は『愚者の森』の入口に近い場所にある為、昔から森抜けの街として利用されている街だった。ここで準備を整えて、翌日早朝に出発し日の沈むまでの間に、森の切れ目にある宿街に辿り着くように段取りを組むことが、暗黙のしきたりとされている。  森を完全に抜けるまでは、安全のため決して夜に出歩いてはいけない。  魔妖は夜になると活動し始める者が多く、また妖力も増す者も多いからだ。住み処である森を夜間に歩くことは、自殺行為に等しい。  碧麗の街は紅麗に比べると繁華街は無いが、宿屋を始め、食料品や雑貨を取り扱う商店と屋台が街道に沿って集まっている。紅麗の次に大きい街というだけあって、品揃えも良く、宿の数も豊富だ。 「……何だか人が少ない気がする」  辺りを見回しながら香彩(かさい)が言う。  街道を歩く人の姿はまばらだった。しかもこの街に居を構える人の方が多く、旅装束の者は少数だった。 「本当だね。やっぱり紅麗に集中してたんだろうね」  同じように辺りを見回して答えるのは(りょう)だ。 「この街は森の入口も近いし。いくら魔除けの『紅麗』があっても、鵺の妖気に充てられた魔妖が街に入ってくる可能性もないわけじゃないしね」  療の言葉に香彩は、無意識に森のある方向を見る。  街道を始め、この碧麗の街にも『紅麗』と呼ばれる、魔除けを施した紅の紙を燃やす燈籠がある。  その灯は魔妖を遠ざけるが弱点が存在し、ある程度妖力の強い魔妖には効果がないのだ。  力の強い魔妖は比例して知力も高く、人と同じ生活環境で生活していることも多い。  だが妖力の弱い魔妖は獣にほぼ近く、鵺に触発されて活性化し始めると、『紅麗』をすり抜けてしまう可能性があるのだ。  こうなるとやはり紅麗にいた方が情報も早いし安全だと、旅の者は紅麗を目指し滞在する。 「……宿、空いてるのかな?」 「……オイラはやってるのかどうかの方が気になるよ」  人気が少ないとはいえ旅の者は決して皆無ではないが、果たしていつも通り宿が営業しているのかと言えば疑問だ。 「まだちょっと日が高いけど、早々に探した方が良さそうだね」  香彩の言葉に療が頷く。 「ねぇ? りゅこ……」  療は自分たちの後ろに歩いている竜紅人(りゅこうと)に振り返った。  それでいいか、彼に聞く為に。 「え」 「──っ!」  香彩と療が見たその光景は。  竜紅人がある方角へ走り出した姿だった。   「駄目だっ竜ちゃん! 今からの時間は……っ!」  反射的に療が走り出す。  そう、竜紅人は『愚者の森』に向かって駆けていったのだ。
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