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第31話 幕間―深淵を覗く者―

   街道の灯りすら届かない森の奥に、漆黒の闇があった。  陽は当に西の空の向こうへ消え行き、煌々とした月が昇る頃合いだ。空に瞬くだろう星々は、冴え冴えと照る月により、その光すら地上から見えることはなかった。  毅すぎる光は、元々存在していたものを見えにくくし、やがて消えてしまう。  青年は冴える月の光すら届かない深い森の中にいた。  辺りはしんと静まり返り、青年以外の気配はない。  時折吹く風に掠れる、木々の葉の音だけが聞こえていた。  青年の切れ長の眼が、清冽な輝きを放っている。繊細で巧緻、一見冷たい印象を与えるその顔は、穏やかなそして優しげな微笑を口元に浮かべていた。  青年は視ていた。  毅光が形を成し、呼ぶ様を。    呼ばれて現れた者を。  その傍らにいた者達を。  ひとりは固い殻を破り、今にも生まれそうで。  ひとりは固い殻に覆われたまま、身の内に巣食うものに意識せず、喰われ続け。  ひとりは深淵の闇を覗き込んでいた。 「これは好都合。闇となるのもまた一興、か」  覗き込んでいる闇に捕らわれる材料なら、十二分にある。  光すら吸収してしまう深淵の奥底で、濃い昏さに揉まれたなら。  反動で生まれるひかりは、一体どれほどの毅さなのか。 「そして今度は光に灼かれる、か。滑稽だな」  青年は楽しそうに、くつくつと笑いながら闇に姿を紛らわせ、消えるようにいなくなった。
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