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4.散り散りになって

「っつ!何だぁ?」 「大丈夫ですか、師匠?」 「あぁ……何か刺されたみてぇだが……」 「もう、しょうがないわね……解毒(キュア)!」 聖女が持参していた聖なる杖をテオドールの首元へと向ける。淡い光がポウと灯り、優しくその場を照らす。 「おー。何かスッキリした気がすんなぁー」 「聖女様の解毒(キュア)ならば効果は抜群ですからね。良かったですね」 「よしよし、じゃあさっさと済ませようぜ」 「真面目に取り組んでくださいよ、もう……では、まずは部屋から……」 レイヴンがため息交じりに扉へと手をかけると、扉が怪しく明滅する。 「え……」 「チィ!手を離せレイヴン!」 テオドールが慌てて声をかけたが、その瞬間にレイヴンの姿が掻き消える。 「えぇっ!き、消えちゃった?」 「なんで気が付かなかった?クソ……」 テオドールは苛立ちを隠せずに頭をかきむしる。止めようとする聖女の手をはたいて扉に触れてみるが今度は何も起こらない。 「ちょっと、テオドール!あなた……」 聖女が声を荒らげるが、テオドールは無視して自分の思うがままに歩き始めようとする。 「気持ちは分かるけれど、今散り散りになるのはまずいわ!」 それでも無視をして、歩こうとするのでさすがに腕を握る。何かに突き動かされるように足を止めようとしない。 いくらレイヴンのことが大切だとはいえ、ここまで一方的なのはおかしい。そう思うのだが、テオドールの方が力も強く敵わない。 「テオドール!テオドール!」 「……」 テオドールは何も答えずに聖女を思い切り振り払う。よろめいた聖女が地べたに投げ出されると、その床が脆かったのか彼女が乗った瞬間に崩れて足をとられる。 「う、嘘でしょ!きゃあぁぁぁー――」 叫び声も虚しくその身体は地下へと吸い込まれていくが、テオドールは見向きもせずにスタスタと歩き去ってしまった。 +++ 「う……ここは……」 はぐれてしまったレイヴンは1人部屋のようなところに立っていた。 飛ばされた影響で少し頭がくらくらとしていたが、もう一度灯火(ライト)を唱え、辺りを照らして探ることにした。 「何だか酔ったみたいな感覚だけど……とりあえず合流を……」 レイヴンは辺りを見回すと、どうやら寝室の1つのようで立派な天蓋付きのベッドがあるのが見える。 「さすが城の中。ベッドも大きい。ただ、埃っぽ……あれ?」 レイヴンはもう一度用心深く観察してみるが、ベッドはよく見ると整っているように見えるし埃を被っていない。 「どうして……埃を被ってないんだ?」 レイヴンがベッドに腰掛けて布団を触って調べていると、扉がバン!と大きな音を立てて開かれる。いきなりのことで驚くが、なんとか声をあげずにゆっくりと立ち上がると扉の方へと首を向ける。 「ココにいたか」 「その声は……師匠?あの、聖女様は……」 レイヴンが聖女を探している間にあっと言う間にテオドールが距離を詰めて、問答無用でレイヴンのことを強く抱きしめた。 テオドールしかいないことを疑問に思うが、改めて同じことを問う。 「何、なんですか……?テオ、聖女様は……」 「レイヴン……やっと捕まえたぜ」 テオドールは熱い吐息をレイヴンの耳に吹き込みながら、愉悦に満ちた声で囁いた。

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