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6.聖女様の本気

「この、変態色ボケジジイがぁっ!」 テオドールが止める間もなく、聖女は振り上げた杖をテオドールの頭に思い切り振り下ろした。 ゴンッ!という鈍い音がしたあとに、テオドールが前のめりにつんのめる。それと同時に、スコンと何か軽い音がして床に何かが転がった。 「あ、あ……」 「はぁ……はぁ……手を煩わせるな。次ふざけたら、トドメを刺す!」 「お、おま……俺のことを殺す気で殴っただろ!咄嗟に防御(プロテクション)を張ったからいいけどよ、頭蓋骨割る気か!」 「うるさいっ!途中から変だなと思っていたが、呪われたのはどこの誰だ!人のことを無視して、突き飛ばして……」 未だにぼんやりしているレイヴンはベッドに寝転んだまま状況判断もできずに黙ったままだ。ギャンギャンと喚いていた2人だったが、レイヴンのことを思い出した聖女が慌てて抱き起こして、解呪(ディスペル)を施していく。 温かい光がレイヴンを包み込むと、妙な熱さは消えていった。 「一体、何がどうなって……」 「レイヴンちゃん、テオドールは呪われていたの。何かに刺された時にね」 「呪い、ですか?」 「そう。あの時に使うべきは解呪だったのだけれど、私も気づいていなかったの。ただ、この人は途中から確信犯でレイヴンちゃんと遊ぼうとしていたから、殴って正気に戻した、という訳。私が力を込めれば同じ効果だから」 「聖なる杖だか何だか知らねぇけど、それ殴る用じゃねぇだろ。いや、都合が良かったんだけどな。この力はなぁー」 悪びれもせずにレイヴンの顔を覗き込んでニヤニヤしているのが分かり、漸く把握したレイヴンもテオドールを思い切り突き飛ばした。 「っと!お前も乱暴だなぁ」 「あったりまえでしょう!何考えているんですか!もしかしなくても、吸血鬼(ヴァンパイア)の呪いを俺に……最低!眷属にしようとするだなんて」 「たまには刺激があっていいだろう……って、分かった分かった!お前も杖を構えるんじゃねぇよ!解呪されたっての!」 「ふざけた分、貴方には働いてもらうから!覚悟しなさい」 「分かったって。呪われたおかげで分かったことがあるし、さっさと倒しに行こうぜ」 テオドールが悪かった、と全く反省していない顔で2人に謝罪らしきものをする。聖女とレイヴンは顔を見合わせて長く溜め息を吐くとテオドールの後に続いて部屋を後にした。 +++ 「どこへ行くかと思ったら、私が落とされた地下?」 「あぁ。呪いの原因がいるんだよ。コイツさえやっちまえば、お前の頼まれ事も終わるだろうよ」 「原因って……吸血鬼(ヴァンパイア)がいるとでも?」 「だな。さっきまで頭の中で声が聞こえてたからなぁ」 トントンと頭を叩くテオドールを見て、レイヴンがうわぁ……と嫌そうな顔を返す。聖女も杖でコツンとテオドールの頭を叩く。 「おい、すぐに暴力に訴えるんじゃねぇよ!」 「気味の悪いことを言うからよ。まだやられてるのかと思って念のため。さ、行きましょう」 「そうですね……俺も妙に疲れましたしさっさと終わらせましょう」 テオドールが楽しげに笑んでレイヴンの頭をポンと撫でる。 レイヴンもそれくらいならばと受け止めて歩き出す。その様子を見た聖女も苦笑して、後に続いた。

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