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8.戦闘開始
「させるかよ。――炎の弾丸 」
「――風よ 」
テオドールが引き金を弾くように炎の弾丸を何発も打ち出すのと同時に、レイヴンが自分たちの足元に風を敷き詰めて、酸欠にならないように空間を確保する。
吸血鬼 は面倒そうに炎の弾丸 を避けながら、自身の手首に傷をつけ腕を振るう。
「――血の雨よ 」
黒く濁る雨が3人へと襲いかかるが、弾丸を打ち出しながらテオドールが左手で雨を払うように魔法を行使する。
「――光の盾 」
何枚もの光る盾が一斉に現れて、降り注ぐ血の雨を防いでいく。両手で魔法を紡いでいくテオドールに吸血鬼 も焦り、一旦距離を取ってからマントを翻す。
「お前たち、あの煩い魔法使いを黙らせてしまえ!」
暗い空間から何匹ものコウモリが現れて、キィキィと耳障りな声で鳴く。その音波にレイヴンは少々顔を顰めるが、集中している聖女を守るようにもう一度息を吐き出して相手を見据える。
「レイヴン、こういう時はどうする?」
「師匠は吸血鬼 のお相手を。俺がこちらを引き受けます」
「頼んだぜ?俺も手助けはしてやるからよ」
目線で合図し合うと、レイヴンも次の魔法の詠唱に入る。テオドールは引き続き炎の弾丸 で牽制しながら、左手で吸血鬼 の攻撃を防ぐ。
「――雷の渦 」
レイヴンが魔法を放つと雷がコウモリへと伸びて、渦状に膨れ上がり何匹ものコウモリを巻き込んでいく。巻き込まれたものは飛ぶことができなくなり、バタバタと地に落ちていく。
「この密室で!正確に魔法を制御するなどと……」
「ウチのレイちゃんの正確さを舐めるなよ?アイツは無駄なことはしないんだよ。残念だったなァ?」
ニヤリと笑んだテオドールが油断していた吸血鬼 に近づき、思い切り殴りかかる。
まさか物理で来ると思っていなかった吸血鬼 は避け損ねて顔を殴られ地へと叩き落とされた。
「……グッ…私の顔を、殴るなどと……なんて、野蛮な……」
「ったくよ、いくら俺のやる気がなかったからってやられっぱなしなのは癪なんだよなぁ?まぁ、能力自体は悪いもんじゃねぇが」
ドヤ顔をしているテオドールに、またか、という顔をして溜め息を吐き出したレイヴンだったが、見事に吸血鬼 の動きを止めたことに気づいて、ちらと聖女へと目配せする。
聖女も瞳を開けて溜め込んだ聖なる力を開放する。
「ミネルファリア様の御力を――聖なる救済を! 」
溢れる光が杖から溢れだす。その光はレイヴンとテオドールにとっては暖かなものだが、悪しき者にとっては自分の存在を消し去る恐ろしいものでしかない。
光は容赦なく空間全体を包み込むように広がっていく――
「やめろ、やめろ……あ、アァァァ……――」
この空間全てが包まれる頃には為す術もなく、吸血鬼 は跡形もなく消えてしまった。
「はー……えげつねぇ。砂も残らねぇとか」
「……ふぅ。残ったら蘇るでしょう?これでこの廃城も大丈夫でしょう。ミネルファリア様の慈悲のおかげよ」
「ミネルファリア様に感謝を――でも、終わって良かったですよね。一時はどうなることかと思いましたけど」
レイヴンと聖女はこの世界を創造したと言われている女神ミネルファリアへの感謝を捧げ、お互いに微笑みあう。そこに舌打ちしたテオドールが2人を引き離す。
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