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第7話

「……ヨリ、兄?」 向かい合った白鬼に控えめに問うが返答は得られない。 徐々に鮮明になって行く輪郭ーー毎年見慣れたものだと思っていたが、この雰囲気の中では別物に見える。目の前に立たれるとより一層大きく感じ、その威圧的な存在感はヒナの恐怖や不安を煽っていた。 少しの沈黙の後、白鬼はおもむろにヒナの手を取り境内の奥へと足を向けた。緊張で過敏になっていたヒナは、触れられた手の冷やかさに肩が跳る。 「ーーっ! ヨリ兄? なぁ、ヨリ兄だよな?」 何か拠り所が欲しいヒナは同じ問いを繰り返す。だが、やはり答えは貰えず、必死にひとり言葉を紡ぐ。 「あ……えと、シュウが! ヨリ兄にあげてこいって……ラムネ! 暑いから、持ってきた……来たらダメなの分かってたけど…………ごめん、怒ってる……よ、な?」 すると、足早に進んでいた速度が緩み、社務所(しゃむしょ)の反対側にある神木の前で立ち止まった。 繋がれた手は解かれ、ヒナは思わず後ずさる。 背中に当たった(みき)を支えにしながら見上げると、白鬼の面はずらされており、その隙間から微笑んでいる口元が露になっていた。 やっと貰えた生身の反応に、緊張の糸が切れたヒナは、脚の力が入らなくなりズルズルと地面に腰を着く。 「勘弁して……ヨリにーー」 「ーー違うよ」

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