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第8話
ヒナの言葉が、低く静かな声音に打ち消される。
男性のものであるのは確かだが、その声は待ち望んで居たものとは異なった。
呆気に取られているヒナに、男は続けるーー。
「ーー名前は?」
何の変哲もない問いだがヒナは違和感を抱く。
片田舎の小さな村では村人全員知り合いのようなものであり、特に若者は少なく、皆自身の子どもや孫のように可愛がっていたーー故に、名前を知らないと言う事は、ほぼ有り得ない。
「ーーだ、れ?」
絞り出すように、疑問が口から溢れ出る。
男は座り込むヒナを抱え上げると、神木と自身の体で小柄な身体を挟み込む。宙に浮きバランスを崩したヒナは咄嗟に男の装束 にしがみついたーー同時に、二人の重心が変わった事を見逃さなかった。
「ーーっ! は、なせよ!」
身を捩り力一杯男の身体を押し返すと、地面に勢い良く落ちる。
本能的にとった行動だったが、何かがおかしいと、思考が追いつくまでそう時間はかからなかったーー脱げてしまった片方の草履 を横目に更に奥へと駆け出した。
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