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第9話

ーーなんで、こんな目にあってんだ……。 倒れ込んだ茂みの中で、数十分前の自身の行動を振り返る。引き返すタイミングはいくつもあった。なんで、どうしてーーそんな考えが頭に渦巻くが、結局意味の無い時間だ。 そんな事より今は、得体の知れない男から逃げ切る算段を立てくてはならない。 不幸中の幸いで、良く訪れるこの神社は隅々まで把握していた。暗闇の中だが自身が今、何処に位置しているのか大体想像は出来ていた。 ーーあっちに……行くしかない。 深呼吸をし、立ち上がったヒナは逃げてきた方向を見据える。 感覚がとぎすまされ、先程まで気にならなかった全身を伝う汗が、酷く鬱陶(うっとお)しい。 男が追ってきている様子はない。 自然と震える脚を、鼓舞するように叩きゆっくりと進む。直ぐに外堀の突き当たりに差し掛かり、その壁を伝い右へと小走りに向かった。 後は本殿(ほんでん)と壁の間を抜け、再び壁伝(かべづた)いに行けば社務所の裏側へとたどり着く。着崩れた浴衣を気にも止めず、記憶を頼りにがむしゃらに走った。 ーーあと、……少し。

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