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第10話

暫く走っていたヒナは、松明の見えた辺りで足を止めた。目的地は直ぐそこだが、ここからその場所までは身を隠す場所はない。 はやる気持ちを抑え、辺りを警戒しながら確実に歩みを進めていると、 『ーー知らない人に、名前を教えては駄目、だよ。絶対、だよ。』 男の腕から逃げ出した時、思い出した祖母との約束がまた、脳裏を過ぎる。 ーーさっきの……やつも名前ーー。 「ーーーーえ?」 フェンスを押すヒナから小さな声がこぼれた。 「なん……でっ」 無意識に声は大きくなり、激しくフェンスを揺さぶるーー。 社務所の裏手にあるフェンスの扉は、普段は開かれ2つの目の出入口として利用できる。実際ヒナを含め地元の子供たちは、抜け道のような感覚で使う者は多かった。 だが、この夏祭りの日だけは別だった。皆が去った後鎖で固く閉ざされ、侵入者を(はば)むーー既に内側にいるヒナはその鉄網が(ろう)の様に感じ、一人閉じ込められている感覚に陥っていた。 「ーーっ! 開けよっ!! くっそ!」 全く開く気配のない扉に怒りさえ込み上げてくる。裸足なのも忘れ、無我夢中でフェンスを蹴り南京錠で繋がれた鎖を目一杯引き続ける。 意図していなかった状況に陥り、正常な判断が出来る状態では無かったヒナは、無駄な足掻きに神経を費やし、背後から近付く足音に気付く余地はなかったーーーー。 「ーー怪我、するよ?」 ーーえ?

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