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第11話
何が起こったか分からない程一瞬で、ヒナはフェンスに抑え込まれていた。
心臓は警鐘を鳴らし、全身へと駆け巡る。
捕まれた両手首からは冷気が伝わり、そこから伝染する様に肝が冷えていく。
「ーー大丈夫?」
放心状態だった意識が、男の一声で覚醒するーーと、同時にヒナは叫んでいた。
「ーーっ!た、たすけて!! だ、れか!」
どうにか抜け出そうと必死に四肢を動かし、助けを叫び続ける。しかし、男の身体は微動だにしない。
白鬼の宴を妨げてはならない。
これまで言われるがまま従ってきた掟だが、今はそれがリアルなものに感じ、現実味のない思考を掻き立てていった。
もしかすると、これはヒトでは無いのかも知れないーーふと、脳裏を過ぎった想像に緊張感が走る。
ただでさえ余裕のない状況の中、更に自身で不安感を煽っていき、動きが自然と制御されてしまう。
徐々に減ってゆく体力。
得体の知れない男。
逃げ道は無いに等しい。
考えれば考えるほど、いい事などひとつも浮かばなないーー。
「手、いた…い、は……はな、して……っ」
震える唇から絞り出された願い。
その言葉に作為的な事は一切無く、それを表すように抵抗する力はぴたりと止む。
「っ……ごめ、なさい」
無意識に謝罪を口にしたヒナは、精神的にも限界は近かった。
拘束は緩み、両腕は自由になってゆくが逃げ出すような気力は既に無くなっていた。
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