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第12話

男の両手がヒナ頬を包み込み身体は一層強ばるーー目の前にある胸板に添えたは手は大きく震え押し返す力が出ない。本能的に男との間に壁を作ろうとしたのだが、あまり意味を成してはいない。 なされるがまま向かい合ってはいるが、閉じる事の出来ない瞳は男を捉えられずゆらゆらと揺れた。 「ーーっ……ア、キ」 これからどうなってしまうのかーーそんな考えが渦巻く中、引き止めてくれようとした友人が頭に浮かび、何度も心の中で友人の名を呼ぶーーだが、それは伝わるはずも無く、勿論助けにもならない。自身がひとりきりだと言う事を再認識させられるだけだった。 抱え切れなくなった感情が(せき)を切り、瞳から溢れ出す。自身ではコントロールを失い零れ落ちるそれを、男がそっと拭うーーと、同時にヒナの口を塞いだ。 柔らかく暖かいそれは、直ぐに離れ再び塞がれる。繰り返し落とされるその蓋が、男の唇であると言う事に気付くまでそう時間は掛からなかった。 「ーー名前は?」 小さく投げかけられた問に、ヒナは答えることが出来ない。 全く予想をしていなかった男の行動に、頭の中は真っ白になり目の前の声に反応する余裕などなかった。 呆然とするヒナを横に抱き上げ歩き出すと、二人の唇は再び重なる。先程とは違い、薄く開いた唇からするりと男の舌が侵入し、器用にヒナの口内を(まさぐ)る。 「ーーっ! ン……んぅっ!」 驚いたヒナは思わず力が入り、口内を動き回る男の舌を噛んだ。 するとゆっくり男の唇は離れゆき、その時初めて男と対面する事となるーー。

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