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第13話

雲の切れ間から覗いた月明かりが2人を照らし、視線が絡んだ。 面は外され、露わになっていた男の顔を直視したヒナは息を飲み、松明の炎に合わせ揺れる陰影に魅入ってしまうーー。 角が生えている訳でもなくおどろおどろしいものでもない。(むし)ろ好感さえ抱いてしまいそうな程、整った顔立ちの青年だった。 混乱した頭で作り上げていた妄想は、柔らかく向けられた微笑みに掻き消されてゆくが、男の一言に一方の疑念は深まっていく。 「ーーヒナ、君? だよね?」 「え……?」 ーーなん……で? この体格の良さだけでも目立ちそうだが、おまけに見目の良さとまでとなると、一度会えば忘れる事はないだろう。だが、ヒナの記憶の限りでは会ったこともなければ、噂さえ聞いたことはなかった。 なぜ名を知っているのか? 会ったことがあるのが? なぜこんな事をするのかーーヒナの疑問が放たれるより先に、男が口を開いた。 「……真名(まな)は、なんて言うの?」 聞き慣れない言葉に「へ?」、と間抜けな声が漏れたヒナを近くのベンチに移動させると、押し倒すように覆いかぶさりクスリと笑った。 「……本当の名前だよ」 ゆっくりと男はヒナに口付けると、間髪入れず強引に舌を()()んだ。 先程も感じた異物感と、自身が負わせた傷口から流れ込む鉄の味も相まって、不快感からヒナは眉を寄せ出来うる限りの抵抗を試みる。 しかし、男はそれを許してはくれず、逃げるヒナの舌を執拗に追いかけ絡め取り、愛撫するーー息継ぎも許可されないヒナの身体は、徐々に酸素を奪われ指先から痺れ、男の肩を押し返す力が弱まっていく。 「んンっ……ンっーー?!」

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