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電話の向こう側
※電話の向こう側
「どうだったー?一ノ瀬。イキリうさぎさん」
電話を切るなり、背中側のデスクの橋田さんがキャスター付きの椅子に座ったまま振り向き声を掛けて来た。
「特に問題はなかったですよ」
「マジか。すげーな、一ノ瀬。あの人、かなりヤンデレじゃん。聞いてるこっちもどよーん、てなっちゃってさ。担当、代わってくれてありがとな」
まあ、彼氏の悩みだしな。
橋田さんは聖也の元担当。
ゲイの相談は少なからずあるから、それはまあともかく、被害妄想まみれのヤンデレっぷりについていけない、と担当がチェンジされた。
その前の担当は女性スタッフの石井さんだったらしいが、
「彼氏が出来ません...っ!僕、おじいさんになっても一人なのかも...、一生、一人...待っているのは孤独死だけです....っ!」
と泣きまくるゲイの相談に女性の石井さんにはかなり負担だったらしく、困惑したらしい。
彼女なりに精一杯なアドバイスはしたらしいが。
橋田さんから、イキリうさぎのプロフを見させて貰い、同じ大学の生徒だと気がついた俺は橋田さんから担当を引き継いだ。
大学で話したすました感じの聖也の印象とのギャップに俺は聖也に恋をした。
そして、告った。
最初、目をまん丸にして棒立ちしていた聖也だったが、
「へ、へー。別にいいけど?」
それはそれは生意気な口調と表情でOKされた。
が、その晩に、悩み相談室に電話が来た。
「こっ、告白されました、どうしたら...もしかして、ううん、きっと僕をからかっているに違いないですー!」
今まで一度も告られた事がなく、不安かつ疑心暗鬼になっていた。
「不安なら直接、彼氏さんに聞いてみてください。僕はなんとなくですが、からかってなんていないと感じますけどねー。あ、遅ればせながら、せ、イキリうさぎさん、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます....」
照れているのか消え入るような声でイキリうさぎ、いや、聖也が呟いた。
可愛いな、ったく。
頬が自然と緩む。
表向きの顔も、裏の顔も実は全て知っている俺は聖也が可愛くて仕方ない。
「マフラーかあ、楽しみだな」
今頃、俺のアドバイス通り、チョコを食べつつ、マフラー編んでるのかな、と胸がほんわか暖かくなる。
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