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第7話

両手で編み棒を屈指し、マフラーを編んでいた僕はふと顔を上げた。 壁時計を見ると7時半過ぎていた。 「あ、ヤバい、もうこんな時間?」 夕飯にしてお風呂浸からなきゃ。 昨夜、ばあちゃんから野菜がたくさん送られて来てたから、煮物を大量に作りすぎちゃってたんだ。 里芋と人参、ごぼう、ちぎりこんにゃくと鶏肉を甘辛く煮付けた。 ばあちゃんの味には程遠いけど、作る手間が省けて良かった、ご飯は朝のが残ってるし、チンしよ。 母さんが作る料理は洋食が多い、ばあちゃんは和食。 母さんの料理も好きだけど、ばあちゃんの料理、子供の頃から好きだったんだよね。 ばあちゃんち行くの凄く楽しみだった。 夕飯を済ませ、その間に溜めていた美容液成分の入った入浴剤入りの湯船に浸かる。 風呂を上がり、一旦、眼鏡を掛けると身体ポカポカしてるからか曇る。 化粧水や乳液などを入れた箱を取り出し、テーブルに置いてソファに座る。 と、突然、テーブルに置いていたスマホが音を立てた。 画面を見ると、亮。 一気に緊張が高鳴る。 先程、遠藤さんに浮気疑惑を相談したからだ。 でも、友人の可能性を示唆された。 ドキドキしながら、亮の電話を取った。 「もしもし?聖也、何してた?」 亮へのマフラーを編んで、ばあちゃんみたいな夕飯食べて、風呂上がりに地味なスウェット姿で瓶底メガネ掛けて、これから肌の手入れを始めるところ、なんて言えない...。 「別に?特に何もしてないけど、テレビ見てた」 「どっかに電話してた?通話中だったからさ」 ギクッ。 留守番付けてないから、その間に掛けてきても通知に残らないんだよね...。 平静を装わなきゃ。 「あー、ちょっと、友達と電話してたかも」 暫しの間を置き、亮のふーん?の声に若干、焦る。 お悩み相談で遠藤さんに相談に乗って貰ってた、なんて禁句だ。 ボロが出ちゃう。 「で?こんな時間にどうかした?」 「あー。次の日曜さ、空いてる?映画観にいかね?」 「映画?」 「最近、バイト忙しかったからさ、デートらしいデート出来なかったし」 ...ヤバい。嬉しい。嬉しいけど。 「別にいいけど」 肝心なことを亮に話せなかった。 「あと、明日、昼飯、一緒できる?」 「うん」 そうして、緊張とドキドキしっぱなしの通話の後は余韻に浸り、甘い吐息が漏れた。

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