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たぎ数センチ、されど数センチ
映画館に入るや否や、キャラメルの芳しい香りが嗅覚を刺激する。
めっちゃいい匂い...。
思わず、瞼を閉じ、くんかくんかと嗅いでしまった。
「ポップコーンや飲み物、買ってくか」
...さすが亮!僕の大好きな彼氏...!
ボックスが仕切られていて塩味とキャラメル味のポップコーンを味わえる仕組みのポップコーン。
そして互いにコーラ。
半券は記念にとっておかなくちゃ、と、こっそり財布にしまう。
重い扉を開けると、広々とした館内には既にちらほら人が居て、亮が選んでくれた席を探し、並んで座る。
まだ灯りは落とされてはいない。
遠藤さんに良く唆されてやってる深呼吸を開始。
はてさて...亮の手を握る事が出来るだろうか....。
暫くは予告が続き、遂には本編。
余命宣告されている女性とのラブストーリー、泣き所満載、めっちゃ感動作とテレビでも良く取り上げていて、実は凄く観たかったんだ。
でも、映画館恐怖症だから、DVDが出るまで我慢しようと思ってた。
暫くすると、あちこちからしくしく。
『私ね...病気になって良かった、て初めて思ったの。だって、あんたと出逢えたんだもん...だから、私もう怖くなんかない』
....なんてポジティブ・シンキングな人なんだ....!
素晴らしい...。
たまにスクリーンの光が少なくなると、暗さが増して震えそうになる情けない僕...。
余命宣告を笑顔で乗り切る、こんな凄い人もいるのに(フィクションだけど)....。
ふと左隣を見ると、肘掛に亮の右手がある...。
さっきは亮から握られた感じだったから...。
ほんの数センチの距離なのに。
その数センチが遠い...。
ごく、亮の手を見つめて喉を鳴らし、はあー、と正面を向き俯いて吐息をつく。
顔を上げてスクリーンを向いた、と、その時だった。
スクリーンの中ではデート中に女性が倒れ、男性が泣いている。
僕は....肘掛に置いた左手を亮に握られた。
そっと亮を窺うと、亮の視線はスクリーンにあり、少し涙目だ。
これ...ナイスタイミング、て奴...?
神様がくれた奇跡?
僕は涙無しには観られない、て落し文句に釣られ、膝に置いていた三枚のハンカチの一枚を取り、目頭を拭った。
映画の女性にも、どうか奇跡が起こりますように....。
そう願いながら僕は亮の手を握り返した。
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