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第11話

映画館に入るや否や、キャラメルの芳しい香りが嗅覚を刺激する。 めっちゃいい匂い...。 思わず、瞼を閉じ、くんかくんかと嗅いでしまった。 「ポップコーンや飲み物、買ってくか」 ...さすが亮!僕の大好きな彼氏...! ボックスが仕切られていて塩味とキャラメル味のポップコーンを味わえる仕組みのポップコーン。 そして互いにコーラ。 半券は記念にとっておかなくちゃ、と、こっそり財布にしまう。 重い扉を開けると、広々とした館内には既にちらほら人が居て、亮が選んでくれた席を探し、並んで座る。 まだ灯りは落とされてはいない。 遠藤さんに良く唆されてやってる深呼吸を開始。 はてさて...亮の手を握る事が出来るだろうか....。 暫くは予告が続き、遂には本編。 余命宣告されている女性とのラブストーリー、泣き所満載、めっちゃ感動作とテレビでも良く取り上げていて、実は凄く観たかったんだ。 でも、映画館恐怖症だから、DVDが出るまで我慢しようと思ってた。 暫くすると、あちこちからしくしく。 『私ね...病気になって良かった、て初めて思ったの。だって、あんたと出逢えたんだもん...だから、私もう怖くなんかない』 ....なんてポジティブ・シンキングな人なんだ....! 素晴らしい...。 たまにスクリーンの光が少なくなると、暗さが増して震えそうになる情けない僕...。 余命宣告を笑顔で乗り切る、こんな凄い人もいるのに(フィクションだけど)....。 ふと左隣を見ると、肘掛に亮の右手がある...。 さっきは亮から握られた感じだったから...。 ほんの数センチの距離なのに。 その数センチが遠い...。 ごく、亮の手を見つめて喉を鳴らし、はあー、と正面を向き俯いて吐息をつく。 顔を上げてスクリーンを向いた、と、その時だった。 スクリーンの中ではデート中に女性が倒れ、男性が泣いている。 僕は....肘掛に置いた左手を亮に握られた。 そっと亮を窺うと、亮の視線はスクリーンにあり、少し涙目だ。 これ...ナイスタイミング、て奴...? 神様がくれた奇跡? 僕は涙無しには観られない、て落し文句に釣られ、膝に置いていた三枚のハンカチの一枚を取り、目頭を拭った。 映画の女性にも、どうか奇跡が起こりますように....。 そう願いながら僕は亮の手を握り返した。

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