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第45話 脳内より指令あり

「それは……大変だ。まぁ、年末だからね。どこも忙しいよ」  昨日、旭輝が仕事が遅くて、官僚って大変だよねって、そんな話を国見さんとしながら商品整理をしてた。お店開店直後ってちょっと忙しいんだよね。前に雑誌にも載ったことがあるんだって。海外の可愛い雑貨を取り揃えてるって。そんなこともあって、街でもちょっと有名な国見さんのお店は開店直後が結構忙しいことが多い。  お昼くらいは少し空くんだ。みんなランチタイムなんだと思う。もちろん土日はそんなの関係ないから、しかもクリスマス前のこの時期において週末が暇なんてむしろ危機的なので。でも平日で、今日は朝から冷たい雨降りだったりすると少し客足は遠のく。  外は寒そうだけれど、クリスマスの雰囲気が溢れるお店の中はあったかくて、少しワクワクした気持ちにすらなれる。 「ルームシェアじゃ気を使うよね」 「あー、あはは、まぁ」  旭輝が国見さんのことを見たなら、まぁその逆もあるわけで。そしてそんな彼のことを説明するのにはルームシエアしてるルームメイトっていうのが一番合ってる。  本物の恋人じゃないし、蒲田さんにはそういうことにしてるけど、でも、ここは職場だからそういうことを隠してますって設定でさ。  共通点もない俺たちはお友達設定よりも、ルームシェアの方がしっくりくるかなって。 「そっか……でも、官僚って大体そのくらいの時間帯になるからね。午前様なんてことも珍しくなかったり。転勤も多いし。エリートなんていうと響きはいいけど、苦労も多い仕事だ」 「……すごい、詳しいんですね」 「え? あぁ、そうだね」 「すごいなぁ。国見さんって外国語もペラペラだし、いろんなこと知ってて。博識ですよね」  エリートの旭輝も英語ペラペラだもんね。俺なんて日本語ですらたまに怪しいしって、笑ってみた。 「そうだ! それで、ルームメイトに英語習ったりしたんですよ」 「へぇ」 「英語、全然話せないと大変だからって」 「えらいね」 「いえいえ、仕事なんで。でも、あいつの声、低くてちっとも聞き取れなくて、何度も聞き返しちゃったりして」  ドキドキして仕方なかったっけ。最近忙しくて英語の練習してないけど、でも俺が交渉するわけじゃないから、ハローって慌てず言えてさ、国見さんに代わりますねって英語で伝えておけばいいだけだし。 「あ! それで、エリートなのに、家庭的なとこもあって。二日酔いにはお味噌汁って、なんかお母さんっぽいとこもあったりして。料理も上手なんです。外食なんて頻繁にしてられるかって言って」  髪をセットするのが好きじゃないっぽい。帰ってくると一番に髪をクシャクシャにしちゃう。  ネクタイも窮屈なんだって。たまに廊下歩きながら解いちゃうのか、既にネクタイはなかったりする。  ご飯は上手。  お酒は、ストレス溜まってるのかな、結構飲むほう。ビールが多くて、なのに、体型は全然。って、裸見たわけじゃないですけども。シルエットがね。何せアパレル系ですから、見ただけでその人のサイズならだいたいわかっちゃったりする。すごく引き締まってる感じ。 「あ、それから、映画はホラーとかすっごい見たがるんです。あ、俺もホラーとか全然大丈夫ですけど、なんていうか嘘くさいじゃないですか? 本物なわけないし。なので、もっと笑えるのとか。あ、でも、コメディは好きっぽいんですよ。すっごい笑うんです。そこも笑う? ってことでも笑ったりして。この前なんて、」 「聡衣君、楽しそうだ」 「……え……あ」 「ルームメイトの話をする時」 「……ぁ……の……」  なんか夢中になって話しちゃってた。  言われて気がつくと、目の前の商品をきれいに並べ替えながら、ペラペラペラペラすっごいたくさん旭輝のこと話してて。  びっくりするよね。そして退屈だよね。知らない人の話をそんな盛大にされてもさ。 「映画好きなんだ」 「ぁ、はい」 「聡衣君はどんな映画が好き?」 「あ、えっと」 「明日、休みでしょ? 店」  水曜日は定休日。 「映画、どうかな」 「……ぁ」 「ちょうど水曜は最寄りの映画館がお得な日なので。そうだな。ラブストーリーとか。いかがですか?」  小さな。  脳内の小人が、ちょっと騒いでる。 「……」  ほら。  おーい! おいおーい! おーけーしようぜー! って。  旭輝はノンケなんだ。フラれるんだ。それなら今後フラれる気持ち持ってたって仕方ないだろ? だから、ほら、こっちにしようぜ? 良い人だぞ。楽しいぞ。話、丁寧に聞いてくれるぞ。  だから、こっちにしょうぜ。  こっちこっち。ぜーったい、こっち。 「時間、少し遅くしようか。せっかくの休みだし。ランチは一緒でもいいかな? 十二時に、ここに」  ほら、リードが上手。きっとエスコートされるのも心地いいと思うぜ?  そう、小人が頭の中でぴょんぴょん跳ねてる。 「……ぁ……はい」  そして、その小人の声に押された俺は、ペコリと頭を下げて。 「十二時、ここに、はい」  返事をしたら、国見さんが笑ってた。優しく笑ってくれた。

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