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第61話 初

 キスだけでこんな……の……。 「ン」  舌先を絡めながら。ベッドの真ん中に座って、膝を抱えていた手で今度は旭輝にしがみついた。 「……ン、ふ、ぁっ」  途中途中で甘い溜め息がこぼれるくらいに深くて濃厚なキスに答えて、もっと欲しいみたいに舌を絡ませる。まだしてたいって、この気持ちいい柔らかくてやらしいキスをもっとしてたいって手で引き寄せる。 「ぁ……」  なのに、キス、終わっちゃった。 「聡衣」  名前を呼ばれて、顔を上げると。 「あっ、ン」  そのままキスの続きみたいに首筋へ唇が触れて、キュって肌を吸われる。さっき絡まり合ってた舌先にうなじのところをくすぐられて、肩をすくめると、耳の付け根のとこ、裏側のそんなところにまでキスされて。 「あっ」  ね、愛撫ってこんなに気持ち良かった?  震えるくらい?  つま先までキュッと丸まるくらい? 「あっ、ン」  こんなに前戯って蕩けるっけ?  こんなじゃなくない?  こんなの、知らない。 「ンっ」  キスしてくれる場所を無防備に晒していたら、旭輝の大きな手が服の中に忍び込んできた。 「ぁ、旭、輝……平気?」  骨っぽい男の人の手。その手が触れたことのある相手はずっと女の人ばかり。ね、身体付きとか触り心地とか違ってるでしょ? 女の人に触られたことなんてないけど、でも、手だって性別で全然違うと思うもん。だから、この身体だってきっと旭輝が触れてきた肌とか硬さとか、細さとかさ、違うでしょ? 「あのっ、全然、違くない? 俺」 「あぁ、確かに全然違う」 「!」  一瞬、その言葉に身構えそうになった。  でも、身構える前に撫でられて、ほら、やっぱり、違うんだって、言いかけた言葉は甘い甘い嬌声に変わった。 「っあっ……ンっ、は、ぁ」  忍び込んできた大きくて骨っぽい手はそのまま女の人よりもずっと硬い腰を撫でて、お腹のところを撫でて、そして、何もない薄っぺらな胸に触れた。 「ンンッ、あっ」  触れて、乳首を、摘まれて。 「やばいくらいに全然違った」  そのままベッドに押し倒された。  見つめ合って、ぶつかった視線に心臓が飛び跳ねる。  真っ直ぐに射抜くように見つめられると、さ。  息の仕方さえ忘れちゃいそう。 「せっかく聡衣をいつか夢中にさせる男になりたくて練習に付き合ってもらっていたのにな」 「あ、ンっ、何、言って」  だって、旭輝の目に映るのは俺だけで。それはまるで、彼が俺しか見てないみたい。まるで、俺に夢中みたい。 「本物はやばい。全然、違ってる」 「っ」  服を捲られて、そのままさっきまで指で摘まれてた乳首を旭輝の口に含まれる。 「やぁ……ン」  濡れてて、柔らかくて、あの口の食べられてるって、たまらなかった。舌先に硬さを弄ばれるようにいじられると、甘ったるい声が我慢しきれずこぼれちゃうくらい。  恥ずかしくて仕方ないのに。  身体を捩って喘ぐくらいに気持ち良くて。 「ふぅ……ン」 「すげ、聡衣の鼓動早いな」 「だ、だって、仕方ない、っ、じゃんっ、あっ……ン、緊張、するっ」  心臓なら、話してる拍子に口から出てっちゃいそうなくらいに今、騒がしく暴れてる。 「聡衣も?」 「だって、そりゃ、そう、でしょ。ノンケとなんてしたことない、し。萎えたらって」 「そっか」 「ちょっ、あのっ」  重いよ。  身体をしっかり隙間なく重ねて、旭輝がおでこにおでこをくっつけながら、ふぅって溜め息をついた。そして、戸惑う俺を下に組み敷いたまま、笑ってる。 「ン、あっ」 「すげ……」  当たってるし。その硬いの、が。  そんで、ちゃんと硬くしてくれたことに、俺は嬉しくなってるし。  したいって思ってくれてる。ちゃんと。 「な、に……」  興奮してくれてる。  その旭輝の心音が密着したこの距離でわずかに聞こえた気がした。  トクトクトクトクって、すっごく早くて。  かけっこしてるみたい。  俺のと、旭輝ので。 「なんで、笑ってんの……」 「いや、すげぇ些細なことだから言いたくない」 「は? ちょ何それ、気になる。言ってよ」  ほら、話してるのにそれでも聞こえる。 「いや……聡衣の初めてをもらえたなって」 「……」  あ、聞こえてるんじゃなくて、くっついてるから、感じる、のかも。ほら、身体をピッタリと重ねてるから。 「ノンケ男とセックスするのは初めてなんだろ? それが嬉しかっただけ。ただのガキみたいな独占欲だ」 「……」 「聡衣」  トクトクトクトク――。 「好きだ」  そして、とろん……って。 「ぁ」  そっと、旭輝の大きな手が腰に触れた。触れて、そして。彼の手が下腹部に触れた。薄いお腹のところを撫でられると呼吸が止まりそうになる。けど、その唇ごと旭輝がキスをくれるから、まるで息継ぎを手伝って貰ってるみたい。 「な、萎えたら……」  そして、その手に女の人よりも骨っぽくて細い自分の指先を絡めて、ルームウエアと下着を脱ぐのを手伝って。 「……怒る」  そう心音くらいの細やかな声で呟いたら、その心配はいらないだろって、もっとしっかり身体が重なって、その重みに、その微かに微笑んでる唇に薄っぺらで膨らみなんてちっともない胸にくっついた小さな粒を食まれて、甘い甘い、小さなでもとても気持ち良さそうな喘ぎ声が零れ落ちた。

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