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第114話 面白きかな人生は

「じゃあ、異動先も決まったんですか?」 「そ。色々調べたら食べ物が美味しそうなところだった」 「まぁ、特産品多い場所ですから……何度か先生と一緒に訪問したことあります」 「そうなんだ!」  蒲田さん、すごい。スーパーモデルと結婚じゃん。 「これで俺は毎日、お前の惚気顔を見かけないで済むな」 「お前……毎日、俺のことを覗き見してたのか」 「してねーよ! するか! いやでも目につくんだよ! 背が無駄にでかいから!」 「お前もでかいだろ。身長、俺と変わらない」 「俺は無駄にはでかくないんだよっ!」  河野……そんな嫌味ばっかり言ってるから。 「あぁっ!」  ほらね。借金抱えちゃったじゃん。脱幸せ路線まっしぐらじゃん。株になんて手を出すから。 「もう新居は決めたんですか?」 「いや、まだ。今調べてるところで」 「でも、そこまで遠いんじゃ探すのも……住まいの準備とか、してもらえたりしないんですか? 省庁の方で」 「してはもらえる。けど、二人で選びたいんだ。聡衣の仕事のこともあるし」  すご。さすが、エリート。超有名大学卒業後、弁護士になっちゃった。 「仕事……」 「あ、国見さんから聞いてるよね。そ、倉庫を借りるよりもアトリエっぽいところないかなぁって、倉庫なんだけど、その倉庫感もインテリアになっちゃうようなとこ。和風の建築物多い場所だし、オシャレかなって」 「寂しそうにしてました」 「……ぁ……うん」  国見さんだけじゃなくてね。  お客さんにも言ってもらえたんだよね。寂しくなるなぁって。 「でも! そんなわけでホームページ作ったからお願いします!」  だからこそ、オンラインでぜひ遊びに来てくださいって、宣伝しまくった。国見さんがその商売根性いいねって笑ってくれたっけ。  だって、素敵なホームページ作ったんだもん。ちゃんとウエブデザイナーさんと打ち合わせとかして、お店の雰囲気に合う感じでさ。そこにはオンライン担当の俺のブログも書くつもりでいる。こっちのお店の入荷状況とかも反映させて、そしたら、遠くからでもここのお店の商品を送料なしで購入できる、とか、やってみたいこと、やりたいことがいっぱいで。  まだ、稼働するのは向こうに引っ越してからだけど。 「これ、ホームページ、ここから飛べるからさ」 「名刺作ったのか?」 「そ、河野にもあげる」 「あぁ」 「そこは素直に受け取るんだ」 「はぁ?」  なんか、最近この嫌味河野が面白くて、毎回こんなふうに揶揄っちゃう。 「まだ、そこ覗いても準備中の札がぶら下がってるだけなんだけどね。やった! 俺、株で大儲け! 河野、いえ〜い!」 「くっそ」  バンザイって手を上げて、偽物の札束をひらひらパタパタ、河野に見せびらかすように手元に置いた。  ホームページはまだ見られない。お店が閉まってる時みたいにドアノブの「準備中」の札がぶら下がってる。もちろん、俺はその中を毎日見ながらコツコツ準備をしてるけど。まるで本当に開店前の準備をしている時みたいにさ。  好きなんだよね。あの時間。  すごくワクワクする。  さぁ、これからたくさんいらっしゃいませって言うぞって。  どんな服を今日は紹介できるかなって。  楽しみでさ。 「あ、次、河野」 「……あぁ」 「っぷはっ、河野、運ない」 「うるさい! たかがゲームだ、多いに貧乏を楽しむからいいんだよ!」  でも、少し寂しいんだよね。  こうして、四人でライフゲーム、もうしばらくできないんだなぁなんて。  蒲田さんの天然も、河野の嫌味も、しばらくは……って。 「まったく……なんでお前らはゲームの中でも順風満帆なんだ」 「河野は日々の生活を悔い改めよってことじゃん」 「俺のどこをどう悔い改めるんだ」 「…………全部?」 「おいっ!」 「全部だろ」 「お前はうるさい」  こんな馬鹿話しもしばらくできなくなるなぁ……なんて。 「またやろうね」  そう、ぽつりと呟いちゃった。  楽しみだよ?  ワクワクしてるし、新しい生活に向けて準備するのもすっごく楽しい。  旭輝との新生活なんて、すごいじゃん。お店持てるなんてすっごいじゃん。毎日、来月からはどんな場所にいるんだろうってさ。仕事の休憩時間とかサイト見まくって、そんで、引っ越してから行ってみたいお店、食べてみたいご飯、遊んでみたい場所、色々楽しみにしていることがまた増えて。でも、この毎日もすごく好きだから。 「やりましょう。なんなら、向こうでやりましょう」 「来てくれんの?」 「えぇ、機会があれば。叔父は仕事の都合でそちらに出向くこともあると思うし」 「俺も行ってやろうか」 「……」 「おい! なんでそこで無言なんだよ!」 「ぷはははは」  こんなふうに馬鹿笑いするの、楽しかったから。  同級生なんだよね。  なんかすごいよね。  同じ年でさ、偶然、同じ学年なのに、まったく違う人生を歩んできた四人ってさ。 「でも、本当にまたやろうね」  こんなに好きがたくさんある毎日がさ。 「やば! んもー! 俺も株で損しちゃったじゃん!」 「あはは、ざまあみろ」 「聡衣、俺の金をやる」 「それはルール違反です! イチャつくのは実物同士だけで! ゲームはゲーム! 勝負は勝負です! 不正は許しません!」  あの最悪な痴話喧嘩から始まったなんて。 「っぷ、あはははは」  あの日の占い、覚えてる。  ――ちゃんと幸せになれる人を選んでね。  確か、そうだった。  ねぇ、選べたよ。  俺は、あの日、ちゃんと幸せになれる人を。  ――はい……そうです。  はい、この人ですって、そう答えて。  ――間違いない、です。  って、そう、コクンと頷くと、にっこり笑ったんだ。

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