114 / 143
第114話 面白きかな人生は
「じゃあ、異動先も決まったんですか?」
「そ。色々調べたら食べ物が美味しそうなところだった」
「まぁ、特産品多い場所ですから……何度か先生と一緒に訪問したことあります」
「そうなんだ!」
蒲田さん、すごい。スーパーモデルと結婚じゃん。
「これで俺は毎日、お前の惚気顔を見かけないで済むな」
「お前……毎日、俺のことを覗き見してたのか」
「してねーよ! するか! いやでも目につくんだよ! 背が無駄にでかいから!」
「お前もでかいだろ。身長、俺と変わらない」
「俺は無駄にはでかくないんだよっ!」
河野……そんな嫌味ばっかり言ってるから。
「あぁっ!」
ほらね。借金抱えちゃったじゃん。脱幸せ路線まっしぐらじゃん。株になんて手を出すから。
「もう新居は決めたんですか?」
「いや、まだ。今調べてるところで」
「でも、そこまで遠いんじゃ探すのも……住まいの準備とか、してもらえたりしないんですか? 省庁の方で」
「してはもらえる。けど、二人で選びたいんだ。聡衣の仕事のこともあるし」
すご。さすが、エリート。超有名大学卒業後、弁護士になっちゃった。
「仕事……」
「あ、国見さんから聞いてるよね。そ、倉庫を借りるよりもアトリエっぽいところないかなぁって、倉庫なんだけど、その倉庫感もインテリアになっちゃうようなとこ。和風の建築物多い場所だし、オシャレかなって」
「寂しそうにしてました」
「……ぁ……うん」
国見さんだけじゃなくてね。
お客さんにも言ってもらえたんだよね。寂しくなるなぁって。
「でも! そんなわけでホームページ作ったからお願いします!」
だからこそ、オンラインでぜひ遊びに来てくださいって、宣伝しまくった。国見さんがその商売根性いいねって笑ってくれたっけ。
だって、素敵なホームページ作ったんだもん。ちゃんとウエブデザイナーさんと打ち合わせとかして、お店の雰囲気に合う感じでさ。そこにはオンライン担当の俺のブログも書くつもりでいる。こっちのお店の入荷状況とかも反映させて、そしたら、遠くからでもここのお店の商品を送料なしで購入できる、とか、やってみたいこと、やりたいことがいっぱいで。
まだ、稼働するのは向こうに引っ越してからだけど。
「これ、ホームページ、ここから飛べるからさ」
「名刺作ったのか?」
「そ、河野にもあげる」
「あぁ」
「そこは素直に受け取るんだ」
「はぁ?」
なんか、最近この嫌味河野が面白くて、毎回こんなふうに揶揄っちゃう。
「まだ、そこ覗いても準備中の札がぶら下がってるだけなんだけどね。やった! 俺、株で大儲け! 河野、いえ〜い!」
「くっそ」
バンザイって手を上げて、偽物の札束をひらひらパタパタ、河野に見せびらかすように手元に置いた。
ホームページはまだ見られない。お店が閉まってる時みたいにドアノブの「準備中」の札がぶら下がってる。もちろん、俺はその中を毎日見ながらコツコツ準備をしてるけど。まるで本当に開店前の準備をしている時みたいにさ。
好きなんだよね。あの時間。
すごくワクワクする。
さぁ、これからたくさんいらっしゃいませって言うぞって。
どんな服を今日は紹介できるかなって。
楽しみでさ。
「あ、次、河野」
「……あぁ」
「っぷはっ、河野、運ない」
「うるさい! たかがゲームだ、多いに貧乏を楽しむからいいんだよ!」
でも、少し寂しいんだよね。
こうして、四人でライフゲーム、もうしばらくできないんだなぁなんて。
蒲田さんの天然も、河野の嫌味も、しばらくは……って。
「まったく……なんでお前らはゲームの中でも順風満帆なんだ」
「河野は日々の生活を悔い改めよってことじゃん」
「俺のどこをどう悔い改めるんだ」
「…………全部?」
「おいっ!」
「全部だろ」
「お前はうるさい」
こんな馬鹿話しもしばらくできなくなるなぁ……なんて。
「またやろうね」
そう、ぽつりと呟いちゃった。
楽しみだよ?
ワクワクしてるし、新しい生活に向けて準備するのもすっごく楽しい。
旭輝との新生活なんて、すごいじゃん。お店持てるなんてすっごいじゃん。毎日、来月からはどんな場所にいるんだろうってさ。仕事の休憩時間とかサイト見まくって、そんで、引っ越してから行ってみたいお店、食べてみたいご飯、遊んでみたい場所、色々楽しみにしていることがまた増えて。でも、この毎日もすごく好きだから。
「やりましょう。なんなら、向こうでやりましょう」
「来てくれんの?」
「えぇ、機会があれば。叔父は仕事の都合でそちらに出向くこともあると思うし」
「俺も行ってやろうか」
「……」
「おい! なんでそこで無言なんだよ!」
「ぷはははは」
こんなふうに馬鹿笑いするの、楽しかったから。
同級生なんだよね。
なんかすごいよね。
同じ年でさ、偶然、同じ学年なのに、まったく違う人生を歩んできた四人ってさ。
「でも、本当にまたやろうね」
こんなに好きがたくさんある毎日がさ。
「やば! んもー! 俺も株で損しちゃったじゃん!」
「あはは、ざまあみろ」
「聡衣、俺の金をやる」
「それはルール違反です! イチャつくのは実物同士だけで! ゲームはゲーム! 勝負は勝負です! 不正は許しません!」
あの最悪な痴話喧嘩から始まったなんて。
「っぷ、あはははは」
あの日の占い、覚えてる。
――ちゃんと幸せになれる人を選んでね。
確か、そうだった。
ねぇ、選べたよ。
俺は、あの日、ちゃんと幸せになれる人を。
――はい……そうです。
はい、この人ですって、そう答えて。
――間違いない、です。
って、そう、コクンと頷くと、にっこり笑ったんだ。
ともだちにシェアしよう!