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新年のご挨拶編 1 こちらアルコイリス二号店です。

 世界で嫌いなことが三つあるの。  一つ目は、タバコとかゴミのポイ捨て。最低でしょ? もうこんなのする奴がいたら、呪われてしまえって思う、もしくはそのポイ捨てした指のささくれ全部、ピッて、切れてしまえって願う。  二つ目は、ホラー映画。  どうして時間割いてまで怖い思いをしたがるのかわけわからない。映画館でホラー映画観る人とかもう意味不明すぎる。怖いの好きってどんななんだ。  三つ目が一番イヤ、かなぁ。  可哀想に思われるの。  大嫌い。  だから、可哀想な思いとか悲しそうな気持ちとかにも、そういうのさせるのも、大嫌いで。 「?」  それは十二月、街も、それから、ここ、アルコイリス第二号店も、クリスマスの雰囲気てんこ盛りの、今日、かなり寒いですけど、な夕方のこと。  男の子が一人、ウインドウのところに立って、じっとディスプレイを眺めてた。  少しだけ、悲しそうな、寂しそうな顔をして。  この辺りって雪が多い場所で、けど、まだ運がいいのかな。雪は降ってなくて。積もると結構すごいって、お客様から聞いてはいるんだけどさ。  ここにずっといるお客様からしてみたら、雪なんてちっとも珍しいものじゃないんだろうけど。  俺がいたとこ、雪ってほぼほぼ降らないから、もちろん積もるのも、小さかった頃にほんの少し記憶している程度のレアケースで。  だから、雪、そろそろ?  なんてワクワクしながら外へと視線を向けたら、男の子がじっとお店の、というかディスプレイを見つめてた。  入ってくる、かな。  クリスマスでプレゼントにいかがですか? って、アクセサリーとかたくさん今週から並べてたから。  気に入ったの、あったかな。  あ。 「待っ」  思わず、立ち上がって、お店飛び出して、声、かけちゃった。 「…………て」  男の子はびっくりして、目、飛び出しちゃうくらいに見開いて、こっちに振り返った。  多分、小学生、くらい。 「あ……えっと、どうかした? 遠慮なく中で見て大丈夫だよ?」 「! だ、大丈夫っ、その、買えな、ぁ、買うとかじゃない、からっ」  でも、その子はリュックを持ってた。まだ中身は空っぽみたいで、ペチャンコなリュックを両手でぎゅっと握ってる。 「クリスマスのプレゼント、とか?」 「!」  彼は、口をきゅっと真一文字に結んで、リュックを握る手にも、きゅって力を入れる。ほら、カラフルなナイロンの可愛いリュックに皺が一つ増えた。  お洒落な子。  男の子だとさ、結構黒っぽいのばっかりだったり、上下ジャージだったりするのに。リュックが前、側面、上、ポケット、ベルト、全部が全部違う色を使っていて、なのに散らかっていなくて、素敵な色合わせをしてあった。 「買いたかった、けど、全然」  そっか。  ちょっと小学生だと無理、かもしれないよね。 「レナちゃんにあげたかった、んだけど」  女の子、だ。  彼女、かな?  彼女にクリスマスプレゼント探しに来たのかな。 「あんま、いいの、なくて」  お洒落なこの子はどのくらい、その「レナちゃん」のためにプレゼントを選んでたんだろう。もう日は暮れてるけど、リュックの中は空っぽでさ。 「そっか……」 「だから」 「…………あ! ちょっと待って」 「?」 「もう帰らないとダメ? もう少し時間あるかな」 「え? あ、うん。平気……けど」  いくら可愛い恋のためでも、ビジネスはビジネス。  商品をあげることはできないけれど。 「ね、そこ座れる? 待っててね。赤い、ほら、これで」  取り出したのは真っ赤は包装紙。クリスマス用に用意したの。可愛いでしょ? 真っ赤で。これなら、ね。この先っぽくらいなら、ね。俺がラッピング失敗しちゃってやり直したってことで。もちろん、本当はそんなミスしないけどさ。  二枚の小さな正方形をそこから切り出して、俺と、その子の前に並べた。 「見てて。って言っても、俺も教わったばっかなんだよね」  折り紙。こっちで仲良くなったママさんの娘ちゃんが折り紙にすっごい嵌ってて、教えてくれたんだ。保育園で「バズってた」んだって。  ハートの形になる折り方。赤い紙でやるのがオススメです。 「こっち俺のね。お手本。できたら君にあげるから。君のはそのレナちゃんにあげるといいよ。そんで、これをこうして、こうして」  二人で少しだけ背中を丸めて、こっそり、と制作開始。  ぶきっちょなのか、すっごい悪戦苦闘してる。でも、角と角がちゃんと合ってれば大丈夫だよ。  う、って、唸って。  あ、って、驚いて。  え? って、二人してわかんなくなってみて。でも――。 「できた!」 「わぁ!」 「お金、あるなら、百円ショップでレジンっていうのを買ってみてさ。このハートをコーティングして、指輪にするの。絶対に可愛いから!」  輪ゴムはサービスです。大きくなったらぜひ、うちでクリスマスプレゼント買ってくださいなって、その折り紙に赤い輪ゴムの輪っかをつけてあげた。小さな指にもはまるちょうどいいように何回か重ねて。  この小さな赤い輪ゴムもサービスです。ディスプレイの布を寄せたり束ねたりするのにちょうど使ったばかりだったから。 「レナちゃんきっと喜ぶよ」 「ホント?」 「ホントホント。カリスマアパレル店員が保証します」  その子はぱぁっと表情を明るくしながら、ちょっとだけ、一瞬だけつま先立ちになると、お店を飛び出した。  素敵なプレゼントになりますように。レジンくらいなら小学生でも買えるでしょ?  そして、その小学生と入れ違いでやって来たのは。 「!」  カランコロン。  アルコイリス一号店と同じ、軽やかな鈴の音。 「楽しそうだったな」  入ってきたのは、ものすっごいイケメン、超エリートで料理も美味くて、もちろん、頭も良くて、とにかくものすごくスパダリな。 「折り紙教室も始めたのか?」  俺の。 「聡衣」  好きな人。

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