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新年のご挨拶編 2 指先まで幸せ
「折り紙でハート型作ってたの。あの男の子、彼女にクリスマスプレゼント渡したかったんだけど買えるのなくて。アクセ欲しかったみたいなんだよね。でも高いじゃん? だからしょんぼりしてて」
そういう顔、させたくなかったから。
だから、教えてあげたの。
激安だけれど、お金よりももっとすっごいものがぎゅうぎゅうに詰め込まれたプレゼントの作り方。
「ついこの間、常連さんに教えてもらったんだ」
ワーママさんで、ちょいちょい来てくださるんだけど、そのワーママさんの娘ちゃんから教わった。
その娘ちゃんも親友の子に教わったって言ってた。
「へぇ」
「旭輝にも教えてあげる」
「あぁ」
「!」
「なんだよ」
「だって、折り紙なんてするとは思わなかったから」
「聡衣が言ったんだろ」
「ノリ? だから、断るかと思ったのに」
「聡衣の指、見てるの好きだからな」
「! そ、そんな、そんな理由?」
「あぁ」
仕事帰り、ビシッと整えた旭輝の前髪が冷たい北風に乱されて、見惚れちゃうその瞳を少しだけ見えなくしてしまう。
それをかき上げる仕草を横目でチラリと伺った。
「一人、将来の常連さん確保か」
「あはは。なってくれるかなぁ。でもお洒落な子だったからなぁ」
「じゃあ、なるだろ。常連に」
「まぁね。俺ってセンスいいから」
「あぁ」
「そこは、ほら、少しくらい謙遜しろ、とかなんとか、ツッコミしてよ」
「聡衣は優秀だ」
「! か、からかうな」
「からかってない」
そう言って、笑って。
俺はそれに照れて。
そんな俺たちのポカポカしてきた指先をどうにかして邪魔してやろうと北風がぴゅっと吹きつけた。
やっぱりこっちは寒いなぁ。
予想はしてたけど、全然違うものだなぁって。
じゃあ、夏は涼しいのかっていうと、そういうわけでもなくて、ちゃんと夏は暑くて溶けちゃうんじゃないかってくらい。向かいのお店がアイスクリーム屋さんで夏は行列ができてるのを眺めながら、食べたいって思ってた。そんな夏だった。
あ、でも、あのアイスクリーム屋さん、冬もすごい大人気で。
でもでも、そりゃ並んでも食べたいよって思うくらいに美味しいから納得なんだけど。
蒲田さんが食べたらほっぺたピンクにしてにっこり笑いそう。
汰由君が食べたら、美味しいって目を輝かせそう。
そのうちこっちに来ることがあったら紹介したいなぁ。
昔の風情が残る街道沿いにあるアルコイリス二号店。一号店でもある国見さんの作ったお店はモダンっていうか、可愛い感じ。お店の庭先には溢れそうなお花がたくさん咲いていて、季節ごとに違うお花が咲いているから、それを楽しみに来店するお客様もいるくらい。
常連のマダムさんだと、そこに似合いそうな花の苗を持ってきてくれるんだって。でも、俺はそんな花が咲き乱れる季節にはこっちに来ちゃってたから、写真だけ。
国見さんの愛しの蒲田さんがちょくちょく写真を送って見せてくれるんだよね。
こんなに綺麗なんです、って、嬉しそうに。
元気かなぁ。
みんな。
「聡衣」
旭輝が小さく笑って、その拍子に口元でふわりと吐息が白く色づく。
「ホームシック」
「! ち、違うし! っていうか、ホーム、ここだし」
「まぁな」
なぁんでもお見通し。
超絶エリートの旭輝にできないことなんてきっと一個もないと思う。不可能なことなんて絶対にない。
「それにしても今日は早くない? 年末でさ」
「そりゃ忙しいだろ」
「じゃあ」
「俺は優秀だからな」
そして無敵。
まだね、たまに、確かめたくなる時がある。
そんな時は指輪を親指で触って確かめる。
この人が、俺のパートナーだなんてって。
同じ指輪をしているんだ、って。
まだ一年。二人で選んだ指輪にはまだ槌目加工(つちめかこう)が残ってる。でもずっと身につけていると表面はなだらかになっていって、いつしか、シンプルなプラチナゴールドの指輪に変わっていく。
その頃も俺たちはこうして一緒にいる…………予定なんだぁって、たまに、驚いたりする。
「それから今日は火曜だからな」
「!」
旭輝の仕事はめちゃくちゃ忙しい。すっごいエリートだけど、でも、ものすごいブラック企業並みに残業も多い激務。そんな旭輝が定時上がりのサラリーマンみたいな時間に帰ってくるなんて。
水曜日。
アルコイリス二号店は一号店同様に毎週水曜日が定休日。
つまり明日はお休み。
前は国見さんと別の曜日にしてもう一日お休みをもらってた。けど、今はお店を一人で担ってるから、もう一日、それは金曜日に一応してるんだよね。国見さんはその辺、稼ぐぞー! 感がない人で、休みも大事だよって言ってちゃあんとお休みをくれる。
国見さんは店長としてお休み週一にしちゃってるけど。
だから火曜日は翌日お休みだからワクワクして、大事なお休みの後の木曜日はまた金曜日がお休みだから、またワクワクして。
毎日がくすぐったくなるくらいに楽しい。
「晩飯、何にするか」
一年とちょっと前、二股バカ男をぶん殴った宿無しだった獅子座は星座占いランキングだって最下位で。
可哀想って思われちゃいそうな感じだったのに。
「アクアパッツア! 超、あれ美味しかった!」
「あぁ、いいかもな。簡単だし」
「手伝う!」
「あぁ」
たまに夢なんじゃって疑いたくなるくらい。
照れ笑いしちゃうくらい。
「じゃあ、白ワインも買っていこう」
「あ、だね。多分なかった」
誰よりも。
「それから赤い折り紙も」
「!」
「教えてくれるんだろ?」
幸せだ。
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