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新年のご挨拶編 3 いただきます。
「まずは半分に折ります」
アクアパッツア美味しかった。地場野菜のコーナーで見つけたトマトが、もう冬だから微妙かなって思いつつ、使ってみたんだけど酸味もいい感じでね。しっかり煮ると甘味が強まるのかな、すごく美味しくなってた。
さすが地場って感じ。
「で、今度は裏返して」
なんだか、別に面白いことをやってるわけでもないし、くすぐられてるわけでもないのに、笑っちゃった。
アイランドキッチンで過ごす時間がすごく好き。
変わらず二人で並んでディナーを楽しんだテーブルに二人で座って、背中を丸めてる。後ろから見たらおかしい風景。身長、旭輝すっごいあるんだよ。外国人モデルレベル。そのシャキッとした背中がキュッと丸まって、指先には手のひらサイズの真っ赤な折り紙。
「そのままここから真ん中に折ります」
今日買ったワイン美味しかった。俺、結構飲んじゃったよね。ほら、折り紙で遊ぶ指先がふわふわしていて、ちょっと熱い。
すっごく簡単な折り方なのに、ヘンテコになっちゃいそうな気がするくらい、ただいま、指先がヘンテコです。
「で、ここがちょっと苦戦ポイントで、三角に折った所をこの中に入れて」
何、してんだろうね。
れっきとした大人が二人、スーパーマーケットの文具売り場で小さな折り紙を買ってさ、二人で夕食の後にハートの折り紙してるって。
変なの。
くすぐったい。
「そうそう、いい感じ」
最初からそうだった。旭輝とは一緒にいると、背伸びしないでそのまま、素の自分でいられる。心地良くて、ずっと、マジでずーっとこうしていたいって思える。
「おお、いい感じ。あとは角に丸みを出すために三角に折ります」
「どうだ?」
「いいじゃんいいじゃん」
すっごいエリートなの。
すっごい頭良くて、実は日本を影で動かしちゃえるくらいで、とっても優秀なの。いい大学出てるし、俺になんてちんぷんかんぷんな論文この前読んで、それをなんかまとめたりしてたくらい。しかも超絶イケメン。そこらへんの人気俳優なんて目じゃないし、声もかっこいい。低くて、甘くて、耳元で囁かれただけで蕩けちゃうくらい。
そんな旭輝が俺の隣で一生懸命折り紙してるって、なんなんだろうね。
「なかなかだろ?」
折り紙ができたって、嬉しそうに笑ったりしてさ。
きっとなんでもできるのに。
どんな相手だって惚れちゃうくらいのいい男なのに。
「なんだ? いい男だなって見惚れて
「はい? 見惚れてませーん」
ウソ。すごい見惚れてたし。
「はいはい。それで? 聡衣の作ったのは?」
「? はい。これ」
「ん」
「?」
俺の隣で顔を綻ばせる色男にめちゃくちゃ見惚れてましたし。
「交換。聡衣のは俺が持ってるから」
「!」
「俺が折ったのは聡衣がやる」
なんだろう、ね。
「俺の折ったハート」
もったいないんだよ? ねぇ、すっごく俺にはもったいないのに。この両手から溢れるくらいに溺愛されてる。
「キュンキュンしたか?」
「! し、してないしっ」
「そうか?」
俺の折った真っ赤なハートを指先二本で摘んで、口元をキュッと上げて微笑んだ旭輝が首を傾げて。
「……」
キスをくれる。
「キュンキュンするかと思ったのに、残念だ」
したよ。したした。
心臓がぎゅってなるくらい、今、旭輝のことが好き。
「何、言ってんだか……」
大好き。
「……ン」
キスの濃度が変わる。
「ン……っ」
甘さが増して、舌先がちょっと痺れるくらいになる。
「っ、ン」
「折り紙くらいに真っ赤だな」
「っ」
心音がすごいんですけど。
「っ、ちょ、まだ、シャワー」
「あとでな」
「あっ、ちょっ」
「明日は休みだろ?」
「あ、待っ、休み、俺だけ、でしょ」
「あぁ」
「だから」
そっと、旭輝の大きな手が俺の脇腹を撫でて、そのままルームパンツの中に忍び混んできた。
「だから、明日は一日ゆっくり寝てて平気だぞ?」
「っ」
忍び混んで、そのままお尻を撫でるから。
「あっ、ン」
思わず、しがみついちゃった。
「聡衣……」
だって、すごい難しい論文解析しちゃうくらいに優秀な頭の中が今、俺のことでいっぱいって感じ。
すっごくかっこいいのに、俺しか見てないって感じ。
みんなきっと旭輝に触れたいって思うのに、その手は俺に触れたくて仕方がないって感じ。
「ン」
そんなのしがみついちゃうでしょ?
「聡衣」
「な、に」
「その顔、ヤバい」
言いながら、頬にキスをくれる。首を傾げてくすぐったがると、首筋にもキスをされる。肩をすくめればうなじにキス。
「ん」
並んで座っているカウンターテーブル。腰のところでひねって向かい合わせのようになりながら、深く、深く口づけられる。少しだけ旭輝が上半身を前に倒すと、それに押されるように俺は背後に重心がずれちゃうから倒れそうで、しがみつく腕に力が籠る。
「エロくて……ムラムラする」
「っ、ン」
「仕事、必死に終わらせてきたかいがあった」
「も、何、してんの」
ご馳走みたいな男のくせに。上物で、高級品みたいな男のくせに。
恋に溺れる男だなんてさ。
「ぞっこんな相手を押し倒してる」
誰にもあげませんってしがみつくに決まってるじゃん。
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