124 / 143
新年のご挨拶編 5 溺愛されまくり
初めて、じゃないけどさ。
「朝飯、クロワッサンサンド、ここに置いとく」
溺愛されてるってこんなに実感しちゃうようなセックスは、したことない。
「ラップ外して食えよ。そんで、紅茶はこのポットに入ってるから」
「教えてくれなくても、ラップくらい外して食べるでしょ」
そうだな、って、そんな肌ツヤッツヤの髪サラサラで嬉しそうに返事されてもさ。
確かに腰、ギッシギシだけど、歩けないわけじゃないし、どこも壊してないし、どこも痛くないってば。少し、まだ旭輝の感じが身体に残ってるけど、それは、ほら、全然いいし。いや、いいっていうのは、良いってことじゃなくて、構わないって意味で……でも、良いかもだけど。そう。そうなの。旭輝とするとさ、なんというか、セックスが幸せで溢れちゃってるから。その余韻すら浸ってて幸せな気分になれるっていうか。
なんていうか。
「大丈夫か? 熱、出たか?」
「! 違っ、違うってば!」
俺のセットしてないただのふわふわな寝癖なのか、生まれつきのクセなのか、ちょっと毛先がくるりとしている前髪を旭輝の大きな手が掻き分けておでこで熱を測ってくれる。
ないよ。
そういう意味では平熱ですから。
「腹のは夜のうちに掻き出したけど、腹痛起きたらすぐに連絡しろ」
「ちょおおおおお!」
旭輝の声を掻き消すように大きな声で遮ると、なんだよ、って怪訝な顔をされた。
なんだよ、じゃないんですけどって、俺は慌てて、今朝から必要最低限の用件以外ではベッドを降りなくて済むように、あれこれ準備してもらった、布団に包まって、自分の口元をふわふわの毛布で隠した。
「まだ、朝早いんですけど」
「? あぁ、そうだな。今の時間は」
「じゃなくて! そんな首傾げたりしないように! 朝からそんな、精……え……き……掻き出した、とか…………とか」
言わないでよ。さすがにピカピカの朝からそんなことを言われると。
「聡衣ってさ」
「?」
「それ、俺にしか見せるなよ?」
どれ? です?
「それ。見た目、恋愛関係慣れてそうなのに、案外不慣れで、照れるとこ。普通に襲われる」
「襲っ、襲わないでしょ! フツー!」
「襲われるだろ。フツーに可愛いぞ」
「は、はぃい?」
何言ってんの? そんなわけないでしょ。フツーに、ないってば。
「それと、昼飯は弁当な。こっち。まぁこの季節だし傷まないだろうから」
「ちょ、本当に作ったの? 平気なのに」
「平気なわけあるか聡衣、昨日何回イったと思ってんだ? 最後の辺りは中イキずっと」
「ぎゃわああああああ」
だから、そこでなんだよって顔しないでよ。
それに本当に一歩もベッドから出なくていいように用意するとかさ。トイレ以外はずっとここでゴロゴロできちゃうじゃん。
「今日は少し夜遅くなる」
「あ、うん。そしたら、俺、何か」
「もうシチュー作ってある。パンは帰りに、この前、聡衣が美味いからって買ってきてくれたパン屋で買って帰るから」
朝、何時に起きたわけ? 俺が目を覚ました時にはもう全部終わらせてたってことでしょ。そんなに無理とかし
ちゃったらさ。
「無理ならしてない。安心しろ」
「!」
「昨日、聡衣を充電できたから全然元気だ」
そこで不敵に笑われて、ほっぺた、熱くてたまらないんですけど。ご飯も用意してもらってさ、昨日だってお風呂も一緒に入って、このふわふわな髪の毛、旭輝が乾かしてくれたからだし。もう全部、髪の先から指の端までぜーんぶ丸ごと大事に、大事に。
宝物みたいにさ。
「あぁ、そうだ」
「?」
「今年の年末」
「あ、うん。帰省、今年はする?」
去年は、バタバタしていたし、行かなかったでしょ? ご実家。二年連続はまずいもんね。超エリートなんだもん。お家だってすっごいでしょ? だから年末年始のご挨拶とかすっごいちゃんとしてそうだもん。ちゃんと帰った方がいいよ。
「俺も、今年は帰ろうかなって思うし」
うちの親、っていうかお母さんだけだけど、夜勤もある看護師だから休みって不定期なんだけど、年末年始はね、去年は仕事だった、若い看護師さんに休みあげたいでしょって、率先して夜勤とかシフト入れてもらってたって。そしたら、今年はその若い一年生看護師さんが二年生になって、今年は任せてくださいって。だから休みになったんだってさ。のんびりするって言ってたから。
「休みって言ってたんだよね」
「そうか。それならちょうどよかった」
「うん」
まぁ、こうして年柄年中一緒にいるし。あけおめを電話でするのも恋愛の醍醐味かなって、少し切ない系と言いますか。会いたいって思うのも恋愛のスパイスと。
「挨拶に伺えそうだ」
「うん。元気だよって」
「一緒に」
「言ってく………………は、はぁぁぁぁ」
会いたいって思うのも恋愛のスパイスって思うから、今年の年末年始は別々だね。
「新年の挨拶に伺えるな」
そう言ってにっこりと笑おうと思ったら、にっこりと笑われて。
「じゃあ行ってきます。気をつけろよ」
気をつけるのはそっちだし。そう言いたかったし、こんなに色々世話しないでちゃんと寝てって言いたかった。
「…………え、えぇ……」
言いたかったんだけど、そのどれも、言葉が出なくて言えなかったじゃん。溺愛されまくってる感が溢れて、もう何も言えなかったんですけど?
ねぇ。
「……えぇ……」
ねぇ、ってば。
ともだちにシェアしよう!