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新年のご挨拶編 10 電話に出んわ

 クリスマスはいつもワクワクする。こういう仕事してると丸一々プライベートは皆無なんだけどね。でも、なんかワクワクする。  今年だってもちろんワクワクしてる、けど。  でも、少し不思議な感じがしてる。ちょっといつもと違うクリスマス。  あ、このマフラー可愛い。ざっくり編みのだからあんまりかなぁ。旭輝ってどっちかっていうとこういうニット編みのじゃなくて、ウールのほうが「らしい」よね。カシミヤとかさ。  けど、こういうの、可愛くない?  プライベートで買い物する時とかなら全然大丈夫。あー、けど仕事の通勤の時、きっちりとしたスーツにこれもいいよね。  うん。  男の人がこうざっくり編みのマフラーをしてるのって、なんか表情柔らかくなるし。それでなくても旭輝って完璧だから、少し、どこかで隙があるとすっごくいいと思う……んだけど、いや、どうだろ。これ以上旭輝の魅力増量させることしても、じゃない? 「う、うーん」  そこでまるで返事をするみたいに俺のスマホがポケットの中で振動した。  平日、アルコイリスがお休みの今日は仕事じゃなく、アルコイリスのある通りに並ぶ他のお店をお散歩しながら眺めてるところだった。  クリスマスに旭輝へのプレゼントをどうしようかなぁって。 「わ、汰由くん」  少し控えめで健気で愛らしくて、そんな慎ましい感じがたまらなくかまいたくなる汰由くんからの電話。  珍しい。  そう思いながら電話に出ると、電話の向こうからバサバサっと何かが落下する音と、それと同時に電話を口元から離しちゃった汰由くんの慌てた声が遠くから聞こえてきた。 『ご、ごめんなさいっあのっ、今雑誌落としちゃって』 「大丈夫?」 『あ、いえ、電話、お忙しいだろうから出てもらえると思ってなくて。だから電話、あの、留守電に入れておこうと思ったら、電話』  電話に出んわ。  慌てながら電話って何度も連呼する汰由くんが可愛くて、そんなオヤジギャグにもならないフレーズがぽんって頭に浮かんじゃった。  ここで言ったら、苦笑いものかな。  っていうか、知らないかも。なんですか? それ、ってなるかも。 『今、大丈夫ですか? お忙しいですよねっ』  今、とっても忙しそうなのはどちらかというと汰由くんです。 「ううん。全然、今日、オフだし。国見さんもオフでしょ?」 『あ、はい。今日、あとでお昼ご飯を一緒に食べようって誘ってもらったんです』  落っことしたのは、雑誌、かな。多分。  そして、このあと約束があるんだと話す声はいっそう嬉しそうに、声が弾んでる。 「ランチデート、楽しそう」 『あ! いえ、あのっ! たまたまです! 普段なら大学の講義があるので滅多には。その、えっと。聡衣さんの、久我山さんはお仕事がすごく多忙だと思うので……その』  ホント可愛いなぁ。  国見さん、デレデレなんだろうなぁ。  だって、多分、大慌て。  自分はランチデートなのに、同じ曜日が定休日なはずの俺は暇って言ってた、つまりランチデートはしないってこと。なのに自分はランチデートするんだってとても嬉しそうに話してしまったって、慌ててる。 「で、今は一人でクリスマスプレゼント買いに出てて」 『あっ!』  ? って、その突然の大きな声に首を傾げた。 『あの…………』 「うん?」 『クリスマスのことで相談したいことがあって』 「うん」  街に出てみると、どこもかしこもクリスマスを楽しもうと空気がはしゃいでる気がした。この、アルコイリスがある通りはこの辺りでも一番栄えている通りで、季節ごとに観光客が行き交う。夏は避暑地でもあるから、それこそすごくて、お店と通りを挟んで反対側にあるアイスクリーム屋さんはそれこそ大行列が曜日関係なく連なってたくらい。  そんな通りの中心部、他の通りと交差して、時期によっては大渋滞にもなっちゃう場所も、今だけ大きな大きなクリスマスツリーが聳え立っていた。その足元に人一人が両手で抱えてせいぜい一つくらいしか持てないほどに、大きなプレゼントのオブジェが山のように積まれている。  大好きなオモチャが入ってるかもしれない。  ずっと欲しかった洋服が入ってるかもしれない。  恋人とお揃いのアクセサリーが入ってるかもしれない。  そんな想像をして楽しんでもらえたらと、街にはそのクリスマスツリーの足元から聞こえてくるクリスマスソングが響いてる。 『欲しいものある? って訊かれて……』  国見さんなら、汰由くんのためになぁんでも用意しちゃいそうだよね。 『でも、なくて。すごくたくさん考えたんです。でもやっぱりなくて。なんかそれはそれで、退屈な子って思われないかなと。せっかくなんでもって言ってるのにとガッカリさせちゃわないかなって』  あのクリスマスツリーの足元に並んだプレゼントボックス。汰由くんはあの箱の中がなんだったら嬉しいんだろう。 『なんて言ったらいいんだろうって……』 「汰由くんの欲しいもの、俺、知ってるよ」 『えっ?』 「すっごく欲しいもの、知ってます!」 『あ、あのっ、でも、あのっ』  絶対にこれ、欲しいと思うんだよね。 「それはね……」  駅の方へと何も考えずに歩いていた。  ほら、見えてきた。  大きなクリスマスツリー。  と、その足元にあるプレゼントボックス。  たくさんの人があの箱の中にある、いい子で待っているともらえるものを想像する。  もちろん、元々いい子で気をつけることなんて、一つもない、汰由くんの今欲しいものも、きっと、あの中に入っている。

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