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新年のご挨拶編 11 ハッピープレゼント
真っ白なストールにもなるような幅広のマフラー。寒いの苦手なんだもん。
あ、でも、ブーツもいいなぁ。
カバンが大きめのばっかりだから、ちょっとした買い物に持ち歩けそうな小さめの鞄が欲しくて。レザーとかがいいかな。メッセンジャーバッグ。腰のところのさ。
腕時計もいいよね。何本持ってても、服に合わせられるから。
それが一昨年まで欲しかったものかな。
今は、そうでもない。あればいいだろうし、便利だろうけど。
幅広のマフラーをして出かけるよりもテンション高くなれることがある。
ブーツがなくても、散歩がしてみたくなる。
カバンは大きいのでいいよ。どんな大荷物だって軽々持ち上げられそうなくらい元気だから。
腕時計はお揃いとか、ちょっと欲しいよね。
俺も同じなんだよね。
汰由くんと同じ。
欲しいものリストにある、あったらいいなぁのプレゼントよりも何よりも、ハッピーになれるプレゼントがある。
それがもらえたら一番嬉しい。
きっと汰由くんもそう。
それが一番、嬉しいでしょ?
だから、こう言うと良いよって教えてあげた。
――国見さんがオフの時にランチデートをしてくださいチケット、十枚。
きっとそれが一番欲しいでしょ?
まるで子どもの「肩たたき券」みたいだけれど。
でも、電話の向こうで汰由くんが表情をキラッキラにしたとこが想像できた。ありがとうございますって言ってる声がすごく弾んでたから。
俺もだよ。
「それ、素敵ですよね」
「あー、ですね。色もいい感じ」
「プレゼント用ですか?」
お。この店員さん、けっこう勘がいいかも。
ね。
俺、あんまり似合わないんだよね、青系って。しっくり来ないっていうか、何色かあったりする時に、パッと手にとる色はそれじゃなくて、暖色の渋め、ダーク寄りな色かグリーン系かな。そこをパッと見極めたスタッフさんが俺のじっと見つめてたマフラーを見て、そう尋ねてきた。
大正解です。
クリスマスのプレゼントを選んでます。
時期的にもそうだよね。
クリスマスを一週間後に控えたこの時期、グッズ系はプレゼントとして最適だもん。アルコイリス二号店でも服そのものよりもグッズの売れ行きが良くなる時期。
店員さんは色に迷っているって判断したらしく、似た雰囲気のマフラーをいくつか色違いで。それから似たテイストで少しデザインが違っているもの。それらをカウンターに並べてくれた。
「うーん……スーツにも合いますよね?」
「もちろんです」
「今、すっごい悩んでて。あっちのウール系のと」
「あー、あっちもすっごく肌触りいいんですよ。でも首に巻いた感じなら私は断然こっちの方がふわふわだと思います」
あ、ちゃんと商品のことリサーチしてる。
「他にマフラー系だと……」
言いながら、俺が欲しいと思ってるテイストを模索しつつ、ガラステーブルの上にめぼしい商品を並べていってくれた。ちゃんと一つ一つ、どんな感じなのかの説明を添えて。
「うーん」
ふわふわかぁ。
いいなぁ。
「あーじゃあ、やっぱり」
そして、ふわふわざっくり編みのニットを指さした。
いい感じのスタッフさんだなぁ。そこまで踏み込まず、でも、察して、お客さんの欲しい方向へちょっとだけ指差して教えてくれる感じ。
服の組み合わせ方もセンスいい。全体的に可愛い感じの人。
「ラッピングはどんな感じがいいとかありますか?」
「んー、じゃあ、青系で」
「かしこまりました」
わ、指先綺麗。爪もすごい綺麗にしてる。指長く見えるなぁ。ラッピングも上手。
こういうリボンの仕方もあるんだ。なるほどなるほど。
うん。
勉強になる。
「ありがとうございましたぁ」
いつも接客をしている俺はお客さん側になると少し気恥ずかしくて落ち着かない。他の人の接客とかやっぱり参考になることもたくさんあるから。お客さんになりきれず観察しながらも、受け取った旭輝へのクリスマスプレゼントに気持ちがふわふわした。
今、抱えてるふわふわのマフラーみたいに。
「気にいるかなぁ」
ふわふわ。
ほら。
まだクリスマスは来週なのに、早く来て欲しくなってきちゃった。今すぐにこのふわふわマフラーを旭輝に渡したくてウズウズしてる。
「どこに隠そうかなぁ」
まるで宝物を隠すような気持ち。
あげるのは俺なのに。喜んでもらいたくて一日歩き回って探したのに。
嬉しくてそわそわしてるのは俺で、早く早くとプレゼントのリボンを外して中身を知りたがる子どもみたいに、早くこれを渡したくて仕方がない。
だって、今一番欲しいのそれだもん。
幅広のマフラーでもない。
ブーツでもない。
革のメッセンジャーバッグでもない。
もちろん腕時計でもない。
欲しいものリストにある、あったらいいなぁのプレゼントよりも何よりも、ハッピーになれるプレゼント。
今欲しいのは旭輝の喜ぶ顔。
今いっちばん欲しいのは旭輝と過ごすクリスマスの「時間」。
初めてなんだ。こんなクリスマス。何にもなくていいなんて。
「はーやく、こいこい、ク、リ、ッスーマスー」
だから、子どもみたいにスキップできちゃいそうなくらいはしゃいで、お正月の歌を替え歌にしちゃうくらいに待ち侘びてる。
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