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新年のご挨拶編 12 ハッピーメリメリークリスマス

 高級ホテルに高級レストラン、足元には宝石みたいな夜景が散りばめられている。お洒落して、すっごく美味しいフルコースメニューをいただいて、その場かな。デザートのタイミングとかちょうどいいかもしれない。二人の間にはすごく素敵なブーケとキャンドル。でもそれ以上にキラッキラに輝く笑顔が……なんていうの、好きだったけどさ。 「えぇ? なんかおっきくない? 旭輝の」 「でかいだけで中身はお粗末かもしれないぞ?」  今は、これが一番好きなシチュかな。 「いやいや、大きい上に……なんか平べったい」 「……年越しそばかもな」 「木箱のやつか。二人前セット的な……」  なるほどね。年末すぐそこだもんね。木箱に入ってるお蕎麦なら美味しいいに違いない。これであとは天ぷらを、っておい。 「聡衣のはでかいな。聡衣がラッピングしてくれたのか?」 「! これ! 違うの! 先週、定休日にアルコイリスのある通りでね、素敵なお店があってさ、そこのスタッフさんがこれ包んでくれたんだけど、すっごい上手じゃない?」 「へぇ、聡衣が包んだのかと思った」 「へへへー、違ってました。っていうか、俺、ここまで上手に包めないかも」 「そんなことない。器用だ。指先も綺麗だし」 「!」  言いながら、旭輝が俺の手を取って、その指先にキスをした。まるで王子様がお姫様をダンスに誘うみたいに。 「真っ赤」 「そ、そそそそそそ、そりゃ、そーでしょ! その! 隙あればみたいなの」 「……」  旭輝は無言でニヤリと微笑んで、ソファの背もたれに腕を乗せ、頬杖をついた。  そう、ここは王子とお姫様がダンスができる広い宮殿でもなければ、高級ホテルの高級レストランのフルコース後のデザートタイムでもない。もちろん、足元には夜景は広がっていないし、二人の間には素敵なテーブルブーケもない。  あと、キャンドルもなし。  足元にあるのはシルバーカラーの毛足長めのふわふかラグ。ここでゴロンってするとすごく気持ちいいんだよ。素肌に触れるともう気持ちがフワフワトロト……ロ、って、なんでリビングのラグの上で素肌というかヌードというか、になったことがあるのかっというのはちょっと置いておきまして。 「そりゃ隙あらば口説くだろ」 「! あの! もう随分前に口説き落とされてるから! 今更なんでっ!」 「まぁまぁ」  笑いながら、いつものソファーでプレゼント交換の真っ最中。 「っていうか! そう! ラッピング! そのお店のスタッフさん接客うまくてねっ。俺が欲しいものをさりげなく察知して、誘導っていうか好みを探りつつ、会話続けつつ。しかも無理のないテンション自由自在のトークでさ。めっちゃ、美人だったし」 「……」 「いや、そこでこめかみピクってさせないでよ」 「するだろ。恋人が異性のこと褒めちぎってんだから」 「何を」 「聡衣にそこまで言われた店員は幸せだな。今度、俺もその店行ってみようかな」 「! ダメ! ぜーたいにモテるし!」  そこで、嬉しそうに笑わないように。尻尾があったら嬉しそうにふりふり振りながら、俺のヤキモチに嬉しそうな顔をしてる。  嬉しそうにキスをして、少し唇をキュッと吸われて。 「っ……ん」  もう甘ったるい声、溢れたし。 「とにかく開けよう」 「あ、うん」 「じゃないと、一番の楽しみに辿り着けない」 「!」  そう耳元で囁かれて、指先がほわりと熱くなった。その指先でクリスマスプレゼントを手渡すと、今度はその手に木箱みたいなプレゼントボックスが手渡された。 「あ、開けるね」 「あぁ、俺もリボン解かせてもらう」  そっとそのラッピングを取ると――。 「わ、すご」 「これ、気持ちいいな」  木箱に年越し蕎麦、じゃなかった。中に入っていたのは取り替え可能なベルトが数本並んだ腕時計。だから、この形の箱なの。 「いいだろ? それ。この間仕事終わりの聡衣を迎えに行ったら、同じ通りにあった時計店が雰囲気良くて。一点ものの職人仕上げのものだった。それでベルトの交換ができるから、好きなコーディネートが楽しめると、主人が教えてくれて」  今欲しいものは、えっと、あのね。  幅広のマフラー。  ブーツ。  メッセンジャーバッグ。  あと腕時計。 「高級ブランド腕時計じゃないが、聡衣にはこういう方が面白いかなと思ったんだ。仕事柄きっと時計も服に合わせたいだろうし」 「……うん……ありがとう」 「こちらこそ。すごいな。これ、気持ちいい」 「!」  ウールのも上品で、旭輝にはすごく似合ってると思ったんだけど。こういうざっくり編みのも案外、似合うって、ね。もう一年近く一緒に暮らしてて思ったんだ。本当は高級レストランのフルコースよりも煮物が好きで、案外子どもっぽいところもあって、かっこいいだけじゃなくて、芯のところが可愛い人。  一緒にいればいるほど。  知れば知るほど。  好きが増すばかりの素敵な人。 「よかった。マフラー似合ってる」 「よかった。喜んでもらえて」  欲しいものリスト。腕時計、もらっちゃった。  本当は木箱の年越し蕎麦セットでもよかったよ? マジで。本当に。だって。 「……ん」  だってね。一番欲しいのは。 「明日、仕事だろ?」 「んー……まぁ」  貴方だから。 「けど、まぁ……まぁ……」  旭輝が一番、欲しかった。だから、誘うように、そっと甘いキスをした。

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