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新年のご挨拶編 14 みんな、元気かな。

 クリスマスが終わると一気に世界は和風仕様に変わってく。  赤に金色、白も、その辺はクリスマスもお正月もメインカラーなのは変わらないのに、グリーンが入っただけでクリスマス感がすごくて、色のイメージって面白いなぁって。  そんなことを考えながら、アルコイリス二号店の窓際もお正月感満載にディスプレイした。  年末年始、お正月はお店休みだけどさ。  お正月のご挨拶代わりに。 「さて……帰りますか」  もらったばかりの腕時計で時間を確認すると、もう九時近かった。閉店後、去年はアルコイリス一号店で国見さんと一緒に大掃除だったし、国見さんのご厚意で早めに上がったけど、今年は一人で大掃除で少し時間かかっちゃった。閉店間際にお客さんが来てくれて年末年始のご挨拶とかしてたら。 「わ、さっむ」  去年は二人でお正月だった。大晦日も一緒に過ごした。実家にはお互い帰らなくて。  今年も旭輝は実家に挨拶行かないんだって。今年は、俺の――。 「! 旭輝?」 「お疲れ」  びっくり、した。  こっちは去年までいた都市部とは全然違って、地方では確かに栄えてる方なんだけど、そもそもの人口密度とお店の密集度が違うから、このくらいの時間帯になると結構人の通りは少なくなる。  朝市とかがあるからかな。みんな早寝なのかもしれない、なんて。  吐息が真っ白になるのを数回確かめてから、その口元が凍えてしまわないようにマフラーの中に埋めるようにして、俯きがちに歩いてた。  ふと、顔を上げたら、旭輝がいて。 「えぇ、なんで」 「なんでって迎えに来ただけだろ」 「平気なのに。寒いでしょ」  俺があげたマフラーをしながら、見惚れちゃうくらいの笑顔を俺へと向ける。  思わず、駆け寄っちゃうくらいの笑顔。 「そんなに寒くない。このマフラーがあるからな」 「!」  まるで子どもみたい。  たった一つのマフラーで寒さなんて防ぎようなんてないのに。それでも嬉しそうに自慢してくれるのが愛おしい。 「掃除も終わらせた」 「いいのに。去年もそうだけど」  俺より二日ほど早くお正月休みに入る旭輝は大掃除をしてくれてた。去年もそうだったし、今年もそうしてもらっちゃったし。っていうかお互いの仕事の休みがそうなってるせいでさ。そしたら毎年じゃん。毎年、数日早く終わる旭輝が掃除を……と、そこまで言いかけて、なんか、喉奥がきゅっとした。  いいのに。去年もそうだけど。それじゃあ、ずっと旭輝ばっかり大掃除することになっちゃうじゃんって、言いかけて、ちょっと言葉が足踏み。  だって、ずっと大掃除をすることになるって、つまり、ずっと一緒にいるって、自然と俺は思っちゃったってことなわけで。 「来年もこの先もそれでいい」  なんか、そんなふうに自然に思えることにちょっと感動っていうか。  違和感なく、来年も、その先もって話してくれることに、一緒にずっといるっていうことが旭輝の中にストンって落ちてるってことに。  なんか。 「それに寒いのは聡衣もだろ」 「……」 「鍋でいいよな。というかもう鍋作ってある」 「……」 「来年は手袋かな」 「……」 「こっちは、やっぱり寒いな。息が真っ白だ」 「……」  なんか、ダメ。 「正月にスキー旅行とかもいいな」  今、すごく、ものすごく溢れた。めちゃくちゃ溢れて洪水しちゃうくらいに。 「聡衣?」  好きが、溢れた。 「手袋代わり! も、もおっ、人ほぼないし!」 「……いても、気にしないけどな」 「!」  好きが溢れて、手を繋ぎたくなった。旭輝のコートのポケットに自分の手を勢いつけて突っ込んで、そのまま、温かい大きな手をギュと握ったら、旭輝が指を絡めてしっかりと繋いでくれる。 「やっぱ、来年、手袋いらない」 「え? なんで」  戸惑って手を離そうとしたら、強く握り返して、笑ってる。  今日はオフだから、旭輝は髪をセットしてなくて、いつもよりもルーズな前髪がキンと冷え切った北風に靡いて、その目元を隠した。 「手袋がなければ、聡衣に手を繋いでもらえるだろ?」 「!」 「しっかし、本当にこっちは寒いな。鍋にして正解だった」  寒いけど、ちょっと暑い、かな。顔、めちゃくちゃ熱い。だからその北風が頬を撫でると気持ち良かった。旭輝のデレっとした笑顔と、離さないって強く握ってくれる手に、のぼせそうで。 「去年は河野と飲んだっけな」  寒いけど、手が幸せなあったかさに包まれてるからかな。 「楽しかったよね」 「そうか?」 「っぷは、けっこう仲良しなくせに」 「仲良くない」 「はいはい」 「……」 「そんで、初詣の時、蒲田さんに遭遇したっけ」 「あぁ」 「あの時には蒲田さん河野のことが好きだったらしいよ」 「……どこがいいんだろうな」 「全部だそうです」 「……」  その頃、まだ国見さんは汰由くんと出会ってなくて、恋は楽しそうだね、なんて笑ってたのに。俺のこととかよくからってたし。  けど、一年経ったら、さ。  蒲田さんと河野は一緒に暮らしちゃってるし、国見さんは大事な大事な汰由くん溺愛しまくりで、去年は単身買い付けに海外行ってたのに、今年は日本でお正月だよなんて、めちゃくちゃ嬉しそうに自慢してくるし。  一年で色々変わった。 「そのうち、みんなで年越しもいいよね」 「河野抜きでな」 「えぇ、面白いじゃん。河野」 「聡衣くらいだぞ、河野で遊ぶの」 「そ?」 「あぁ」  色々変わったけど、きっと。 「はぁ、みんなの話したらみんなに会いたくなってきた」 「ホームシックか?」 「かもね」  きっと、この手の温もりの優しさと幸福感はずっと変わらないって、星が煌めく夜空に二人分、おしゃべりが弾んで、ふわりふわり昇っていく白い吐息を眺めながら、そう願った。  ずっと変わらないって、そう、思った。

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