134 / 143

新年のご挨拶編 15 帰路

 新幹線ってなんかワクワクするよね。 「うわ……流石に空いてると思ったんだけど案外混んでるね」 「まぁ、むしろ元旦だからな」  新幹線で二時間くらい、到着した駅は普段だと平日だろうと休日だろうと大混雑の東京駅だけれど、元旦くらいは日本人ものんびりしてるかなって思った……んだけど。 「聡衣、はぐれるなよ」 「ちょ、子どもじゃないからっ」  思った以上に日本人は元旦だろうと頑張るらしい。駅の通路にはあっちこっちに向かうモコモコダウンの楽しそうな人たちと、家族で迷子にならないよう一生懸命に小さな子どもを連れて歩く家族で大賑わいだった。  初日の出に、初詣、それから元旦の特別イベントが開かれてるレジャーパークへ向かう人。  その中にはきっと俺たちみたいに実家へ帰省する人も、きっといて。  同じように手土産の紙袋がガサゴソ騒がしいひともきっといて。 「ほら、聡衣、手」  その実家帰省にパートナーを連れていて、めちゃくちゃドキドキしている人も、いるのかな。 「え、だって、ここ」 「みんな自分の用事に忙しいから平気だろ。それにちょっと、まぁ……あれだ」 「!」  朝、思わず確認しちゃったんだ。  本当に、うちの実家に来るの?  って。  その時の旭輝はすごく普通にしてた。自身アリって感じで、特にいつもと変わりないっていうか、たまにある、今日は仕事で何か勝負時なのかなって時と同じ表情をしてた。そういう時はすぐにわかるんだよね。俺が選んであげたネクタイをして、いつもよりも髪をしっかり後ろに流すの。何にも、前髪にすら邪魔されないように、目標だけをしっかり見据えられるように。  そんな時と同じ顔をしてた。  俺の方がソワソワしてたくらいだった。  初日の出よりも早い時間に起きて、まだ眠たいけれど新幹線は待ってくれないからと二人で簡単は朝食を済ませてから、数日空ける自分たちの部屋に「行ってきます」をした。 「旭輝も」 「……」 「緊張とか、するんだ……」  繋いだ手の指先が冷たかった。 「あのな、俺のことなんだと」 「超絶スバダリ」 「んなわけあるか」  あるよ。あるじゃん。  だって、エリート官僚の中のそのまたエリートくらいだったらうちの親にだって自慢できるだろ? なんて言ってたじゃん。  自分で自分のことそう言ってたでしょ?  不敵に笑ってたし。  でも、もし同じことを他の人が言ったら自意識過剰って言われそうなこともさ、旭輝が言うと、まぁ、確かにってなるくらい、本物のスパダリのくせに、緊張とか、するの? 「緊張するに決まってるだろ」 「……っぷ」  なんか、可愛い。 「笑うな」  手土産、めっちゃ選んでたっけ。  今日、鏡の前で身だしなみ整える回数、めちゃくちゃ多かったっけ。まるで思春期の男子高校生みたいに、前髪一本でさえ気を遣ってる感じだった。 「大丈夫だって。うちの親、めっちゃ面食いだから」  それなら尚更、なんて難しい顔しなくて平気。 「さ、ちょっとどっかでランチしてこ」  ご飯、喉通る? そう尋ねたくなるくらい繋いだ手から緊張が伝わってくるから、その手を、ぎゅって、ぎゅーって繋いた。もうここからは時間指定のチケットで移動ってわけじゃないからさ、まずは腹ごしらえ。お昼ご飯は和食がいい? 煮物好きだもんね。中華にイタリアン、どこもお正月元旦から賑やかな駅の構内をデートを楽しむように歩き回った。  実家の最寄駅はこの辺りではけっこう大きい駅。でもその駅の周りにはぎゅうぎゅうに家がたくさん敷き詰められている。 「わ……すごい、お店、こんなおっきな家電のお店が入ったんだ」  数年、帰ってきてなかった間に駅は様変わりしてた。ここ、何が建ってたっけ。と、まるでそこの記憶だけすっぽりと切り取られちゃったみたいに、様変わりする前の駅の詳細が思い出せない。 「あ、ファミレス無くなってるのかぁ」  今はそこはフィットネスジムに変わってた。建物も一度取り壊して新しくジムにしたせいで当時の面影は全くないけれど。 「高校生の時、よく友達とここに来てなぁ」 「へぇ」 「テスト期間あるじゃん? その時とかも友達とここで勉強してさ。テスト終わった最終日は絶対にここに来てご飯食べてた」  テスト期間って大体半日で終わるでしょ? その最終日はもう教科書なんてほっぽり出して、山盛りのポテトフライを食べてた。  そう当時の話をすると旭輝はもう跡形もなくなった今はフィットネスジムのほうを見つめながら、目を細めた。  ここがよく行ってたカラオケ屋。  こっちの通りを少し入るとすっごくお洒落なカフェがあって、いつか入ってみたいなぁって思ってた。でも結局入らなかったっけ。ほら、男同士で入るのは今でこそ気にしなくても、昔、高校生の時って、なんかそういうのやたらと気にしてたりしない? だから友達とか誘って入ることはできなくて。好きだった男子なんて、もう全然、誘えなかった。かといって女友達とは入りたくなくてさ。好きな男子いるのに、女友達と一緒にカフェなんて入って、付き合ってるとか噂言われたくなくてさ。 「駅は大きいけど、田舎だからね」 「……」  憧れのカフェだったなぁ、そう呟いた。 「あ、うちの実家へ向かうバスはあれね」  あれも、そうそう、大変だったっけ。都会じゃ考えられないよね、バスの本数ピークで一時間に三本なんてさ。取り遅れたらすっごい待ちぼうけを食らうの。 「あ! 旭輝、バス来てる!」  こんなふうに高校生の時も乗り遅れたら大変だって大急ぎで走ったっけ。  懐かしい。 「よ、かった。間に合った」  懐かしい記憶と思い出をなぞるようにしながらバスに乗り込むと、まるでタイムスリップマシンにでも乗り込んだみたいで、ちょっとワクワクしている自分がいた。

ともだちにシェアしよう!