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新年のご挨拶編 23 あくび

 旭輝が初めて、だった。 「明後日、初詣行くか」  快楽以外の「気持ちいい」を感じるセックス。 「う……ん」  ちょっと遅い時間。やっぱり馴染んでる自分達のお風呂にゆっくり浸かって、ポカポカのまま、ベッドに横になったところだった。  旭輝が俺の乾かしたばかりの柔らかい素髪にキスをしながら、初詣を明後日にって。旭輝のお休みは四日まで。だから、今日が二日で明日が三日で、まぁ、平気なんだけど、でも、明日何にも予定ないよ? 初詣を四日にしたら忙しくなっちゃわない? それとも明日は旭輝だけの用事とかある感じ? 「いや……今日、イきすぎてたから」 「!」 「身体負担だろ? 店は五日から新年オープンでも、きっと聡衣のことだ。四日にはネットの方の仕事進めるつもりだったんだろ? それを明日ゆっくり家でやっておけばいい。外出は明後日の四日。初詣を三が日に絶対しないといけないわけでもないだろ」  言いながら、唇に触れる俺の素髪の感触が気に入ったのか、旭輝はずっと頭にキスをしてる。そこで話されるとくすぐったいってば。それに、イきすぎ、って言われてもさ。仕方ないじゃん。だって、なんか、ダメだったんだもん。  あんな後で、感度上がらないわけないじゃん。  一生、とか、大事にするとか、実家に挨拶とか、もう全部が全部、ダメだったんだもん。  繋がるだけで気持ち良くて溶けちゃいそうなセックス。  触れ合うだけで、胸がいっぱいになるキス。  抱きしめられるだけで震えちゃうくらい感じる優しい腕。 「明日はゆっくりして、明後日、午前中に初詣に行こう、と、思う……けど……どうだろうな」  えぇ? なんで? たった今、旭輝が自分で提案したそれを自分からどうなのかって言わないでよ。  ふと、声が低くなった旭輝へと顔を向けると、すごく険しい顔をして、何か悩んでいる。 「旭輝?」 「明後日も、変わらず、今日と同じかもしれないな。抱くから」 「だっ! だだだだだっ」 「そりゃそうだろ? 一緒の休みになることなんて一年でそうそうないんだから。もったいない」 「んなっ」 「大丈夫。明日はもう少しセーブするから」 「セセセセセ」  セーブするって、セーブって。 「とりあえず、寝るか……」  そう言って、旭輝の職場の人が見たらきっととても驚くだろう、思い切り油断しまくってる感じの大きなあくびを一つした。  こんな旭輝、みーんな知らないんだろうな。とっても優秀で、隙なんて一ミリだってなくて、いつだって完璧なスパダリの、大きな大きな、あどけないあくびなんで。  っていうかさ。  ちょっと。  ねぇ。  明日も抱、抱、抱くとか、さらっとしれっと言われて、どうすんの? いや、今日、したいって言ったの俺だけどさ。でも、だからと言って、そんな宣言をされると色々、あの。 「っぷ」 「ちょ、笑わないでよ!」 「笑うだろ。一人で真っ赤になってんだから」 「だ、だってっ」 「ホント……」  そこでもう一つ、大きなあくび。 「そういうとこ……」  今度は、一つ、小さなあくび。  そして、瞼は閉じて、小さな小さな声が「可愛いよな……」なんて、寝言なのかなんなのか呟いて、俺のことをぎゅっと抱き締めた。  緊張、してたよね。  きっと、うちのお母さんに会うって、ずっと緊張してた。  声が少し低めの、ずっとかっこいい声だったから。まるで職場にいる時みたいに。たまにうちにいる時にも仕事の電話をする時がある。話してる内容は俺には全然わからないけれど、その声は少し低くて、ハリのあるかっこいい声なの。俺と二人でいる時はちょっと違う。優しくて、柔らかめで、甘い感じ。  もう、寝ちゃった?  さっきまでおしゃべりをしていた唇からは穏やかな寝息が聞こえてる。  普段は決まってる前髪が見つめられるとたまらない目元を隠して。 「おやすみなさい」  そう囁いても返事はなかった。すでに夢の中。  去年のお正月だった。  河野と飲んで、今年もよろしくってして。それ以外は二人で過ごすお正月に、何気ない会話の中で、旭輝が言ったの。  年越し蕎麦の話から家族の話になって、ホント、普通の会話をしてるつもりだったのに。そこからさ、じゃあ、新年の挨拶をしないとな、なんてさ。まるで、普通のことみたいに言うから。  ―― ゲイって知ってるんだろ?  自信たっぷりな感じに。  ――彼氏ですってエリート官僚連れて行けよ。  そんなことを言ってた。  恋人紹介の肩書きとしては悪くないだろ?  なんて。冗談なのかと思うくらいに楽しそうに言ってた。  俺はそんなふうに先がある恋愛に戸惑って、驚いて「何それ」なんて可愛くないこと言った。  ねぇ。そこから一年。  職場が転勤になったこと、アルコイリス二号店のこと、色々新しくなった周囲が落ち着いてさ。そしたら本当に、うちのお母さんに会いに行くんだもん。 「俺こそ、だよ」  そっと囁いた。 「一生」  そーっと抱きついて。 「大事にするね……」  その腕の中で目を閉じた。  離さないようしっかりと抱き締めると、とてつもなく幸せな初夢が見れそうで、少し口元が緩んじゃった。

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