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新年のご挨拶、今度は編 1 クリスマスパーティー

 巷ではイヴの方がなんだかクリスマスのドキドキがすごくて、クリスマス当日はなんとなくワクワクがすごい感じ、じゃないでしょうか。  ドキドキは好きな人と。  ワクワクは大事な友達とか家族とか。  そんな人と過ごす時に感じるキラキラした気持ち、みたいな。  そして、クリスマスが終われば、あーあ終わっちゃったと嘆きながら、次のお楽しみを冬休みだったり、お正月のお年玉だったり、そんな方に向けていく感じ。ではないでしょうか。  けど、俺の場合は――。 「さ、て、と……わ、さぶっ、さっっっっぶー」  これからそのドキドキとワクワクがやってきます。  ここでの冬の厳しい寒さにはまだ慣れてなくて、お店を後にした夜遅く、帰ろうと外に出る度に冷たい空気に驚いて飛び上がってしまうけれど。  でも明日は特別定休日。  だから、お店を飛び出す足はスキップ混じりで楽しそう。  そして、今日はクリスマス。  だから、家路を急ぐ俺の口元はご機嫌で嬉しそう。  こっちに来てそろそろ一年。お客さんもちょくちょく遊びに来てくれる安定感も出てきたし。売上的にも順調だし。そして、何より。 「おっ、旭輝もちょうどじゃーん」  プライベートがとっても、とおおおおっても、順調。 「どっちが先に帰るか、競争、ね……と」  勝利条件はおかえりを言うこと。おかえりなさいって、出迎える側になれたら勝ち、ね? そんなメッセージを送りつけてから、雪がどっさり降った一昨日のおかげで、雪だるまが百個でも二百個でも作れそうな歩道をそっとそっと、でもできるだけ早く歩いてく。  まだ慣れない雪道だけど。  まだ毎朝雪景色に感激しちゃうけど。  二回目のクリスマスが嬉しくて仕方がない。  旭輝と過ごす二回目のクリスマス。  だから、ある意味初めてのクリスマスだ。  二回目のクリスマスは初めて。 「お、ととと……とと」  みんなには、はいはい、雪ですねって感じ。  俺には、まだ 「わ、すご」  ワクワクする雪景色。  そして、楽しいクリスマスをこれから満喫しようと、まだまだ不慣れな雪道を尻餅つかないように気をつけながら、歩いていった。  クリスマスプレゼントは靴にしちゃった。  紳士服なら超得意分野。でも靴はちょっと専門外でさ。  けど、見つけた靴が旭輝のお気に入りのスーツにすごく合うと思ったから。  俺の自慢の一つ。自慢っていうか、自負? 自画自賛? とにかく。自分でもすごいと思うんだけど、大体の人、男性オンリーだけど、パッと見でサイズわかるんだ。スーツとかさ。前にすごく専門的な紳士服のところに務めてて、パッと見で来店したお客様のサイズ感わからないといけなくて。そこで必死に感覚掴んだんだ。  お客様にアドバイスを求められた時、すぐにちょうどくらいのサイズを提案できるようにって。  だから服のサイズはバッチリ。けど、靴は全然。  旭輝の靴のサイズ、こっそり確認して、靴のメーカーによっては合う合わないあるからそこも考慮して。  あいつが履いた時、心地よく仕事に行けるように。  外出も多い仕事だから、冷たくて硬いコンクリートのところをじゃんじゃん歩き回っても疲れないように。  二回目のクリスマスだから。  三回目もきっとあるだろうから。  日用品がよかった。記念とかじゃなくて、明日も明後日も、明明後日も、来年も使えるのがよかった。  旭輝の「毎日」の役に立つのがよかった。 「あー、ウソっ、けっこう早かったと思ったのに」  みんなが、あぁ、クリスマスが終わっちゃうなぁって思い始めた頃。 「残念、おかえり」  俺たちのクリスマスパーティーが始まる。 「……ただいま」  ドキドキもワクワクも一緒に詰め込める二回目のクリスマス。  ドキドキは好きな人と。  ワクワクは大事な、まぁ、その、なんていうか、家族っていうか、ずっと、一緒にいたいパートナーっていうか。  とにかくそんな人と過ごす、二回目のクリスマスが今から始まる。 「外、寒かっただろ」 「うん、今日は本当にやばい」 「聡衣のリクエスト」 「! やった、おでん!」 「クリスマスにおでんって渋いな」 「いーじゃん」 「まぁな」  あ。  今の顔、すっごいかっこよかった。  おでん作りながら笑った顔、なんて、別にかっこつかないはずなのにね。惚れたなんとか、だ。本当、なんていうか、好き、なんだよね。去年より好きかもしれない。  旭輝のこと。 「なぁ」 「んー?」  コート、しまって。ニットのままでいいかなぁ。家着になるのめんどいし。このニット気に入ってるんだよね。身体のラインが綺麗に出るっていうか。オーバーサイズなのがちょっと俺的にセクシーっていうか。 「今年の正月」 「うーん」 「俺の実家に行かないか」 「うん……………………ぇっ!」  ウオークインクローゼットのある寝室から、飛び出るように戻って、「は?」って顔で。 「俺の実家」  キッチンでグツグツおでんを温めてるのが、なんでか世界一かっこいい旭輝を見つめた。 「行かないか?」 「…………」 「一緒に」  今から始める。みんなの楽しいクリスマスが終わりかけた頃から、俺と旭輝の二回目のクリスマスパーティーが始まる。  ドキドキと。  ワクワクと。  それから――。 「は、はいっ?」  オロオロが詰まった、二回目のクリスマスパーティーが。 「はいいい?」  始まっちゃった。

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