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新年のご挨拶、今度は編 2 将来とか未来とか

 雪にまだはしゃいでる。  昨日も一昨日も雪は降ったり止んだり、もちろん、当たり前のようにホワイトクリスマスでさ。お店に足を運んでくれるお客さんだって、「はいはい。雪ですね」って、特別はしゃぐわけでもないし。  雪に、ホワイトクリスマスに、嬉しそうにしてるのは、子どもと観光客の人たちと、あと、俺くらい。  朝起きて、窓を開けた時の世界がリニューアルしたみたいな真っ白な景色に。  本当に雲でも口から出してるみたいに、色濃く白い吐息に。  サンタさんもトナカイも、困ったなって顔をしそうなホワイトクリスマスに。  そして、隣にいてくれる存在に。  気持ちが朝日に輝く雪みたいにキラキラしてくる。  冷たい北風に攫われて、輝きながら空を泳ぐスノーダストみたい。  そんなクリスマスに――。 「ちょ、っ、えっと、何」 「俺の実家、正月。店は年末年始休むんだろ?」  そう、だけど。 「新幹線、取った」 「はいっ?」 「今年は、正月、実家に帰らないんだろ?」  そう、なんだけど。 「夜勤明けだからって、昨日」 「言っ」  た、けど。  うん。  そう。  確かに昨日、寝る時に聞かれたっけ。  ――今年の正月は実家に帰るか?  そう。  ――んー、今年は帰らないかなぁ。夜勤明けって言ってたから。言っても、忙しくさせるだけだし。また長い休みが取れ……って、あれっ! 旭輝は、どっちでもっ! あの。別に、今の、一緒にって。  ――もちろん、一緒に挨拶に行く。じゃあ、今年の正月は帰省なし、だな。  言ったけど。  一緒に帰る前提みたいに話しちゃったことに慌ててた。  帰るのか?  その一言を尋ねられて、パッと頭に浮かんだのは、あの時のお正月の光景で、すんなり、当たり前みたいに旭輝も一緒にって思っちゃった俺の頭の中に、大慌てで。  だって、そうでしょ?  帰るのに、旭輝も一緒っていう前提じゃさ。  ない、でしょ?  その、だから。 「うちの実家」  だからね。 「聡衣のこと、紹介したい」  俺、そういう「将来」のある関係はまだちょっと、慣れてないんだってば。 「一緒に、うちの実家について行ってくれないか?」 「けど! でも、急すぎて」 「新幹線なら取ってある。二枚」  えぇ? だって、今から取れないでしょ? じゃあ、その新幹線のチケット二枚、いつ取ったわけ? ねぇ。 「ずっと、いつがいいか考えてた」  えぇっ? 「別に普通にしてもらってかまわない」  えぇぇっ? 「気兼ねすることもないし、構えなくていいから」  無理っ! 構える。すっごくしっかり構えちゃう。 「だって、俺だよ? ねぇ、その」 「あぁ。聡衣だから、紹介したいって思ったんだ。聡衣以外、ないから」 「……」 「一緒に来てくれるか?」 「……」  二回目のクリスマス。  キラキラしたイルミネーションはちょっと大都会には劣るけど、大都会にはない大きな雪だるまがいくつも庭先あったりする。のどかで、時間がゆっくり流れてる気がして、こんな毎日もいいなぁって。ずっとアパレルやってるからか大都市とかさ、人が多いところばかりにいたからかな。夜は九時も過ぎれば駅前でだって、人はまばらで、住宅街ともなれば、ほとんど人なんて見かけないくらい。  野菜が美味しくて。  お客さんからも庭先で採れたのって言って季節ごとの野菜をいただけたり。  生活感がある日常っていうかさ。  その隣に旭輝がいる。  毎朝、変わらず「おはよう」を言う相手がいる。朝食を一緒に食べて、今日は帰りがこのくらいだから、夕飯はこうしようとか。明日は晴れだから明日厚手のもの洗っちゃおうとか。日常を二人で過ごしてる。  ねぇ、そんなきっと些細なことにだって、まだ俺は一喜一憂しちゃうんだってば。  なんだったら、昨日、旭輝が、「あ、牛乳、切れそう。聡衣、コーヒーに必要だろ? 買っておくから」そう言ってくれただけで、嬉しくて、お店でニヤニヤしちゃってたんだってば。  ねぇ、だから、まだこの「当たり前にある二人の生活」というやつにさえ、はしゃいでるんだってば。  なのに、「将来」とか「未来」とか。 「……聡衣?」  だって、紹介しちゃったら、「将来」とか「未来」の旭輝の隣に、俺がいるってことになるんだよ?  うちの方はそれでいいし、それでとっても嬉しいけどさ。  旭輝の方は、もっと、ちゃんとした人が、って思うかもじゃん。 「聡、」 「困るかもしれないよ?」 「?」  俺、学歴ないよ?  見た目だって、エリートサラリーマンにはどうひっくり返ったって見えないよ? 「だから、その」 「……」  ちゃんとなんてしてなかったんだからさ。 「頑張る」 「……」  恋愛だって、一年後、今隣にいる相手といるのかとか、そんなことも考えなかったし。 「だから、フォロー、してよね」 「……」 「絶対に、こんなのじゃダメって言われるから」 「言わない」 「いやいや、言われるってば、だから、ちゃんとするようにするし。旭輝も!」  緊張する。 「俺、絶対に自己紹介する時噛むから」  もうすでにカチコチ。 「噛んだら、フォローよろしく!」  今なら颯爽と、右足と右手を同時に前に出して歩く自信ある。 「あぁ」  そんな俺に旭輝は、ふわりと、まるで雪景色に目を輝かせる子どもみたいに笑ってた。  嬉しそうに、笑ってた。

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