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新年のご挨拶、今度は編 3 準備します。

 去年の自分だったら、怖気付いてたかも。  かなり驚いて、それで、そんなこと急に言われて持って、え? ちょっと待ってってなったさっきみたいなリアクションの後、きっと、まだもう少し待って欲しいとか言ってたと思う。  お店の方、まだまだだし、とか。  自分に自信ついてない、とか。  今は仕事を中途半端にしたくないとか、集中したいとか。  そんなこと言ってたかも、って思う。 「いや、それとこれとは話が別だろ」 「別じゃないっ! んで? どんなお菓子が好き、っていうか好物は?」 「……」 「ねぇってば」  けど、今はちょっと違ってる。  最初はびっくりしたけど。ちょっと待って、って思ったけど。  でも、挨拶、行くよ。  俺も、旭輝の家族に紹介、してもらう。 「洋菓子と和菓子だったら?」 「……和菓子」 「オッケー、じゃあ、あと」 「饅頭でいい。だか」 「準備!」 「……」  うわ、そんなに不服そうな顔、しないでよ。そりゃ、クリスマスパーティーして、二人でお鍋食べたら、ベッドにって思ってたけどさ。  まぁ、その、イチャイチャっていうか、楽しみにしてたけど。  不服顔をしている旭輝をじっと見つめて、肩をすくめた。  したいけど。 「だって、集中できない」  セックス。  仕方ないじゃん。俺にとっては一世一代の大イベントだよ。 「ちゃんと認められる相手になりたい」 「……」  そう、メモを握りしめながら伝えた。いつもは仕事のことをなんでもここにメモしてる。気がついたことでも、本店でもある国見さんに提案したいこととか。些細だったり、重要だったり。  俺の一生懸命が詰まったメモノート。  そこに旭輝のご両親の好きなものをメモってた。  まずはご挨拶の時の菓子折り選びから。ご両親の好きなもので、プラス、今、旭輝と過ごしているここのこともアピールできたらいいなって。  あと、好きな色とかも聞きたい。  ラッピングとか凝ったのにしたい。 「…………わかったよ」 「!」  観念したのか、旭輝が溜め息をついて、キッチンカウンターに肘をついた。 「和菓子でいいよ」 「うん」 「あ、あと、じーちゃんも一緒に住んでる。ばーちゃんは他界した。もうけっこう経つ」 「そう、なんだ」 「実家にいるのは親父と、お袋」  へぇ、そう呼ぶんだ。  どんな人だろ。  やっぱ旭輝に似ててかっこいいんだろうな。そんで、お母さんはきっと美人。ハキハキしてるかな。おっとりしてる? 「親父は市役所に勤めてる」 「そうなの?」 「まぁ、同じ公務員。んで、お袋はパートしてるよ。近所の和菓子屋」 「えぇ、じゃあ、和菓子じゃダメじゃない?」 「そうか? 饅頭好きだけどな」 「うーん」 「んで、祖父は趣味が盆栽」  わ、なんか、絵に描いたような感じ。 「あ」 「!」 「あと、煮物が好きだな。だからか、うちの夕食、和食が多かった」 「あ」  旭輝って煮物好きだよね。意外に和食の方が好きなんだよね。へぇ、そっか。 「あと、姉がいる」  ……そこ。一番心配かも。 「聡衣のこと話したら、すげぇ、気にしてた」  だ、だよね。俺、合格できるかな。だって、絶対に、すっごい美人でしょ? 写真とか、旭輝が家族写真持ち歩かないだろとか言って、見せてくれないから、どんな感じなのかわからないけど。でも、パーフェクトウーマンでしょ?  背、高そう。  スタイルモデル並な気がする。  黒髪で、もしかしたら、超ストレートの超ロング。お人形みたいな。旭輝もストレートだもんね。 「が、頑張る」  見た目、気をつけよ。  美容院……さすがにこのギリで無理だよねぇ。  あ、お客様でスタイリストの方、いるけど。前に、いつもファッションですごくアドバイスが役に立ってるって、お礼になるかわからないけど、いつでもヘアカットするからって言ってもらえたりしてるけど。  本当にお言葉に甘えちゃおうかな。  年末だと忙しいよね。  いや、けど、このアッシュブラウンは……でしょ。  冬カラーで少し赤っぽくしたいとか思ってたけど、言語道断だよ。  真っ黒だといかにもだし。自然に、けど、清楚? な黒髪にしとこう。お父さん、市役所の人だもん。すっごい真面目かもしれない。市役所にいる人って、やっぱり清楚な感じの人多いもんね。  うん。  ダメもとでお言葉に甘えてみよう。そんで、あとは、スーツなら……あー……でもやっぱリクルートっぽいっていうかビジネススーツの方がいいよね。ないんだよねぇ、あんま。商談の時のためにビジネススーツ持ってるけど、どっかやっぱオリジナリティとかさ、持たせたくて。 「聡衣」 「!」  色々考えてた。  メモノートを見つめながら、どうしようかなって。  そんな俺のことを旭輝がじっと見つめてた。カウンターに肘置いて、頬杖つきながら。そして、長くて骨っぽい感じがドキドキしちゃう手を差し出す。 「……色々考えてくれて、ありがとうな」 「……」  そっと優しく触れてくれる。  ねぇ。  こっち、でしょ。  こっちのほうこそ、ありがとう、でしょ。 「ど、いたし、まして」  俺をパートナーとして家族に、大事な家族に紹介してくれるの、こちらこそ、ありがとう、だよ。

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