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新年のご挨拶、今度は編 12 家族
小さな頃の旭輝は背がそんなに高くなかった。
運動会の写真、ピースしてるの、すっごく可愛かった。
地域の子どものイベントなのかな。三角のキラキラとした帽子を被って、おちゃらけた表情で写真に写ってるのが、すっごく子どもっぽくて思わず笑顔になった。
中学くらいにすっごく伸びたみたい。
この辺りからめちゃくちゃモテただろうなぁって思う。でも写真に映る旭輝は男友だちとばかり写っていた。修学旅行? の時、すっごいかっこよかった。この頃に会ってたら、もしかしたらもう好きになっちゃってたかも。一目惚れみたいな。そんでノンケだしって、自分から失恋確定ってして諦めてたかもしれない。
高校になると写真がぐんと少なくなった。けど、もうなんていうか「イケメン」として出来上がってる感じがすごくて、これで頭も良いんでしょ? やばいよね? 反則じゃん? なんかズルいって思うくらいに完璧「良い男」予備軍だった。
俺の知らない旭輝がお母さんが見せてくれたアルバムには詰まってた。
俺以外と接してる時の旭輝はお父さんに似てる感じかな。あまりたくさん話さないところとか、雰囲気も。
そんで、俺といる時の旭輝はお母さんに似てる感じ。笑い方なんて本当に似過ぎてて驚くくらい。
おじいちゃん子だったんだって話してくれた。おばあちゃんはもう亡くなっちゃったけど、ご両親が共働きで、その頃は近所に住んでいたおじいちゃんの家で、お母さんの和菓子屋さんでのパートタイムが終わるまで待ってたって教えてくれた。和食が好きなのはそのおばあちゃんのおかげなんだって。
とっても料理が上手なおばあちゃんだったんだって。
――パタン。
「!」
その物音に飛び起きた。
「悪い。起こした」
「ぁ……ううんっ、っていうか、寝てた」
旭輝が子どもの頃に使ってた部屋はもうすっかり綺麗に片付けられていた。勉強机とかどこに置いてあったんだろうって考えながら、敷いてもらった布団でゴロンとしていたら、そのまま居眠りしてた。
「疲れたろ」
所々、木の壁には旭輝がポスターとか貼ってたんだろう画鋲の小さな穴がいくつも残ってた。
一軒家って窓、多いよね。集合住宅にしか住んだことのない俺はこの対角のところにも窓があるのがなんか不思議で落ち着かない。けど、ここが旭輝の過ごしていた部屋だと思うと、逆に落ち着くし。
俺のことなんて知らない出会う前の旭輝。
俺以外の子が好きだったり、俺の知らない友だちとここで無邪気に遊んでたんだろう旭輝。
不思議で、くすぐったくて、嬉しい。
「ガッチガチに緊張してたのが一気に緩んで、ふにゃふにゃ」
「あぁ」
そこで、眩しそうに旭輝が笑ってる。
お母さんと同じ笑顔で。
「今日、ありがとうな」
「! う、ううんっ、こっちだってば! お礼言うの。本当にっ」
「姉貴ははしゃいでうるさいし、母さんなんか張り切りすぎててさ」
そうなんだ。何それ、すっごい嬉しい。
「親父は緊張してたな」
え? そう? 全然わかんなかった。
「じいちゃんは普通だったけど」
あは。それもなんかすっごい嬉しい。俺がいても構えたりしないでいてくれたんだ。優しいおじいちゃんだよね。おじいちゃん子になるのわかる気がする。
俺、完全な核家族だったからなぁ。
あんなにたくさんの家族が一緒の部屋にいる空間って、初めてで、不思議っていうか、ちょっとドキドキした。
「なんかさ、この実家の空間に聡衣がいてくれるの、かなり嬉しかったよ」
「!」
「ちなみに、姉貴の旦那、雅樹は地元だからさ」
あ、言ってたね。同級生で、保育園から一緒だったって。
「だから、小学校前はよく一緒に遊んでた」
うん。けど、小学校入るとやっぱりなかなか一緒には遊ばなくなって、高校の時に、なんていうか、二人が急接近、だったんでしょ?
「お袋、おおはしゃぎでさ。あのまー君と! とか言って、バレンタインとか姉貴をけしかけてた。チョコ渡せって。そんで、姉貴が真っ赤になりながら、いらないとか叫んで、朝から大騒ぎ」
「……」
「うちの家族」
「うん……」
「んで、聡衣は俺の家族だから、ここも聡衣の家族」
「!」
それ、すごいね。
俺ってば、いきなり大家族じゃん。
「うん……ありがと」
お母さんと二人生活だった。自立して、そこからはずっと一人暮らしで、恋人ができたりして同棲はしたことあるけど、同性だからね。家族にはならないし、家族っていう考え方そもそも持てないし。俺も、相手もさ。だから、基本、一人。増えても、実家くらい。
動物は……アパレルなので。ちょっと難しいし。毛、着いちゃったら大変だからね。
でも寂しいと思ったことはなかったよ?
自分で選んだ道だもん。
一つも失敗したなんて、嫌だなんて思ったことない。
まぁ、レンアイは失敗多かったけど。
でも、そのレンアイで失敗したから、この恋を見つけられたんだし。
「ありがとうは、俺のほうだろ……」
近。
も……なんか、ドキドキする。
「聡衣」
「うん」
俯きがちにうなづいた。気恥ずかしくてドキドキして。きっと顔、真っ赤だったでしょ。
そんな俺に小さく優しく旭輝が微笑んで、それから手を握ってくれた。俺の薬指に輝く槌目加工の指輪をそっと指で撫でながら。
「はぁ、早く帰りたい」
「?」
「帰ったら、セックス、できるだろ?」
「っぷ、何それ」
「こっちはこの帰省の準備で一週間近くお預けくらってるんだぞ」
だって、仕方ないじゃん。集中できなかったもん。そわそわしちゃってさ。
「朝できるだけ早く帰る」
「えぇ?」
「帰ったら、抱く」
「っぷ、すご、宣言」
でも。
「いいよ」
「……」
「帰ったら、セックス、しようね」
「……」
「俺も早く、旭輝としたい」
したいな。
セックス。
旭輝と早くたくさんくっついて、繋げて、大好きって交わして、奥で感じたい。
「お前、ここで煽るなよ」
「えぇ、言い出したの、旭輝じゃん」
「俺は我慢してたからな」
「あはは」
早く、旭輝に抱いてもらいたい。
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