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新年のご挨拶、今度は編 13 苺ジャム
「帰り道、気をつけてね」
「はい」
旭輝が「あぁ」なんて答えるよりも早く俺が答えてた。
玄関先で見送ってくれるお母さんがにっこりと笑ってくれた。その拍子に口元にふわりと白い吐息が立ち込めるくらいに寒いのに、みんなで見送ってくれる。
「また来てね」
「あぁ」
今度は、ちょっと出遅れた。けど、旭輝がすぐに返事をしてくれた。その返事に、お母さんたちが喜んでくれたのはもちろんすごく、嬉しかったんだけど。でも、一番後ろにいてくれたおじいちゃんがにっこりと笑ってくれたのが、とにかく嬉しかった。
「それじゃあ」
「はーい」
「あの、本当に、ありがとうございました」
「こちらこそ、素敵なプレゼントまでもらっちゃって、ありがとうね。今度は聡衣さんの好物たくさん作ってあげるわ」
本当にこっちこそ、ありがとうございます、そうきっと何百回だって言えちゃうくらいに本当に、本当に――。
「ほら、聡衣、タクシー来てる」
「うん」
ずっとここでその挨拶をリピートしてしまいそうな俺に旭輝が苦笑いをこぼしてた。そしてそんな旭輝と俺を、ずっと扉開けて「早く乗ってくれ」って待っているタクシーにと急足で向かった。
タクシーに行き先を告げると、朗らかな声が返事をしてくれた。そしてタクシーはゆっくりと駅の方、なんだと思う。カチカチとウインカーの音を鳴らしてから、滑るように走り出す。
「放っておくと、ずっとあのまま玄関先で日が暮れるまで続きそうだった」
「そこまでは」
なる、かな。
「早く帰りたいんだ」
まぁ、俺も、かな。
「寒いもんね」
「……」
そういう意味じゃないって顔してた。
「冷蔵庫空っぽだし、帰りに何か買って帰らないとだけど、二日じゃ、まだスーパー早く閉まっちゃうかもだしね」
「……」
そういう意味でもないんだが、って顔してる。
「早く帰ろ」
「あぁ」
そこには不満そうな顔をしないで、即答してくれるのがおかしくて、タクシーの中で小さく笑った。
そして、行きはひどく緊張しながら見つめた景色を、今度はのんびりと、それからホッとした気持ちで眺めていた。
「聡衣」
「う、ん」
やっと自宅に帰ってきた。たった一日だけれど、留守番をしてもらっていた家具たちはキンと冷えていて、朝、出かける時にはポカポカになっていた空気も、ぎゅっと縮こまってカッチカチな感じ。
だから大急ぎで部屋を温める。
コートを来たままでエアコンのスイッチをつけたところで手を掴まれた。それからそのまま腕を引っ張られて、抱き締められて、深い深いキスに舌先が絡め取られてく。重ねた唇の隙間から溢れる吐息は、もう一瞬で色付いてた。
旭輝のキスは気持ち良すぎて困るんだよね。
触れただけで虜になるキス。
そのキス一つで、もう、ほら、我慢なんてできなくなっちゃう。
このキスをされたらもう、ね、何より旭輝のことばっかり欲しくなっちゃう。
何より好き。
何より大事。
なんだろ。
こんなに満たされた気持ちになれること、あるんだぁって、なんか驚くの通り越して、ふわふわしてるかも。
去年、うちの親に会ってもらった時とはまた違うんだ。
なんだろうね。
言葉が上手に使えない。ちょうど良い言葉がちっとも見当たらない。
けど――。
「旭輝、っ」
でも――。
「ありがと」
そう感謝の言葉と一緒にキスをしたの、初めてだ。
「……あは」
キスして、すっごく欲情してるのに、優しくてあったかい気持ちで胸のところがいっぱいになるのも初めてだ。
「あっ……っ」
我慢できないくらいに欲しくて仕方がないのに。
「あ、指、熱い」
「そりゃ、ずっと帰りの電車の中で我慢してたからな」
「っぷ、そんなに?」
あんなにクールな顔してたのに? ただ駅のホームで電車を待ってるだけなのに、その立ち姿がなんかもうカッコ良すぎて、見惚れちゃうくらいだったのに?
「そんなにだ」
「まぁ」
奥深くまで旭輝でいっぱいにされたい。
ね、とろっとろに、どろっどろになって、もうめちゃくちゃにされたいのにさ。
「俺も、だけど」
こんなに優しくて清々しい気持ちになれるなんてこと、あるんだね。セックスしたい。旭輝といますぐ、したい。そこ気持ちとかテンションにさ、一ミリだって、砂粒一つ分だってやましい気持ちがないなんてこと、あるんだ。
「ね、今日は」
「?」
コツンって、額をくっつけた。
そのまま自分からコートを脱いで。
恋をしてる彼氏を抱き締めた。
「たくさんしたい」
「……」
仕事が一番だった俺に、仕事と同じくらい、んー……仕事よりも、かもしれない。
大事な宝物。
ね、いなくなっちゃったらさ。
「旭輝」
あ……やば。想像するだけで心臓痛い。
旭輝がいなくなったらって想像しただけで無理だ。
ねぇ、そのくらい大事な人。
俺の一生大切にする宝物。
「……も、早くたくさん、したい」
その宝物を大事に抱き締めたら、胸の奥がとろりと蕩けて、甘い甘い苺ジャムみたいにこってりと艶めくような赤色をした恋しい気持ちが込み上げてきて。
「……ん」
触れ合った唇から本当に甘い味がした。
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