12 / 21
第12話
陽平くんは理一を連れて帰り、玄関先で見送った後は久しぶりに実家に電話を入れた。
「はい。木村です、どちら様でしょう」
よそゆきの鼻にかかる母の声。
「あー、俺」
の一言で、あっという間にいつものおかん。
「あー、なに?随分、久しぶりじゃない、全く、正月もお盆も連絡すら寄越さない癖に」
説教が始まりそうな気配に、慌てて自分がいつ箸を使い出したか、きっかけを尋ねた。
「あー...どうだったかしら。あー、そうそう、大智のお下がりの矯正の箸を使わせてたわね」
大智、とは俺の2つ上の兄だ。
「矯正の箸?」
「そう、こう輪っかの付いた、子供用の短い箸で練習させたわよ。でもいきなりどうしたの」
「あー、いや、知り合いの二歳の男の子がいて、どうやって箸の練習させたらいいのかな、て」
電話口の母がふうん?と微かに笑う。
「まあ、いいと思うわよ、バツのある人でも」
「....は?」
「だーから、以前の旦那さんと上手くいかなかった、としてもお子さんの親権があるなら、旦那さんに何か問題があったのでしょうし?」
「ちっがうし!知り合いだって」
しかも、相手は男だって事まで話す必要はないか。
「ふうん?でも、誰かの為に真摯になって連絡してくるなんて。盆も正月も連絡しないあなたがねえ」
あー、全く...
「だから...あー、てか、その箸、てスーパーで売ってんの?」
「どうだったかしら?もう随分前だしねえ...なんならあんたが使ってた箸、取ってある筈だから休みにでも取りに来たら?最近も出張が多いの?」
「や、最近は落ち着いた。入社も長くなると下っ端増えるし」
「でも安心したわー、あなたにもいい人が出来たみたいで」
「だから...もう切るから」
「あー、はいはい、また連絡しなさいよ」
電話を切った後は思い切り溜め息をついた。
次の休み、母が出していてくれた俺が昔、使っていた箸を取りに行った。
今はやってはいない、当時、流行っていたアニメの柄に思わず笑った。
「こんなん使ってたんだ、俺」
実家は早々と後にした。母のお喋りに付き合ってられん。
陽平くんに、次、いつ会えますか?渡したい物があります、と連絡したら、瞬時に既読が付いた。
『渡したい物、ですか?』
『はい。理一も連れてきてくれたら助かります』
暫くし、
『助かります。理一が誠さんに会いたいとか、お家に行きたい、てうるさくて笑』
理一、喜んでくれるかなあ、反応が楽しみだ。
ともだちにシェアしよう!