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第12話

陽平くんは理一を連れて帰り、玄関先で見送った後は久しぶりに実家に電話を入れた。 「はい。木村です、どちら様でしょう」 よそゆきの鼻にかかる母の声。 「あー、俺」 の一言で、あっという間にいつものおかん。 「あー、なに?随分、久しぶりじゃない、全く、正月もお盆も連絡すら寄越さない癖に」 説教が始まりそうな気配に、慌てて自分がいつ箸を使い出したか、きっかけを尋ねた。 「あー...どうだったかしら。あー、そうそう、大智のお下がりの矯正の箸を使わせてたわね」 大智、とは俺の2つ上の兄だ。 「矯正の箸?」 「そう、こう輪っかの付いた、子供用の短い箸で練習させたわよ。でもいきなりどうしたの」 「あー、いや、知り合いの二歳の男の子がいて、どうやって箸の練習させたらいいのかな、て」 電話口の母がふうん?と微かに笑う。 「まあ、いいと思うわよ、バツのある人でも」 「....は?」 「だーから、以前の旦那さんと上手くいかなかった、としてもお子さんの親権があるなら、旦那さんに何か問題があったのでしょうし?」 「ちっがうし!知り合いだって」 しかも、相手は男だって事まで話す必要はないか。 「ふうん?でも、誰かの為に真摯になって連絡してくるなんて。盆も正月も連絡しないあなたがねえ」 あー、全く... 「だから...あー、てか、その箸、てスーパーで売ってんの?」 「どうだったかしら?もう随分前だしねえ...なんならあんたが使ってた箸、取ってある筈だから休みにでも取りに来たら?最近も出張が多いの?」 「や、最近は落ち着いた。入社も長くなると下っ端増えるし」 「でも安心したわー、あなたにもいい人が出来たみたいで」 「だから...もう切るから」 「あー、はいはい、また連絡しなさいよ」 電話を切った後は思い切り溜め息をついた。 次の休み、母が出していてくれた俺が昔、使っていた箸を取りに行った。 今はやってはいない、当時、流行っていたアニメの柄に思わず笑った。 「こんなん使ってたんだ、俺」 実家は早々と後にした。母のお喋りに付き合ってられん。 陽平くんに、次、いつ会えますか?渡したい物があります、と連絡したら、瞬時に既読が付いた。 『渡したい物、ですか?』 『はい。理一も連れてきてくれたら助かります』 暫くし、 『助かります。理一が誠さんに会いたいとか、お家に行きたい、てうるさくて笑』 理一、喜んでくれるかなあ、反応が楽しみだ。

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