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久しぶりの実家
理一が風邪を引く度に、陽平くんは休みさえ潰し、看病に当たっているのか、と俺は知らされた。
あの狭い部屋で。
運転する俺の背後、額にひんやりシートを張り眠る、理一を抱いている陽平くんがいる。
実家は車で15分程の場所だ。
が、実家に近づいている矢先、陽平くんが、
「や、やっぱり、その、大丈夫です」
と、遠慮した。
「ここまで来たんですし、母も子供を三人育て上げてますから」
そうして、久しぶりの実家。
ぐったりしている理一を抱き、陽平くんはかなり戸惑っている様子。
致し方ない、と思っていた。
「あら...陽平くん?誠も久しぶりだけれど...」
「ご、ご無沙汰しています」
理一を抱いたまま、陽平くんは慌てて母に頭を下げた。
何のこと...と思った。
「こ、こんな形でご挨拶なんて、申し訳ないです...」
「陽平くん...陽平くんは何も悪くは無いわ。責任は全て結衣、末っ子で一人娘なせいか、あんな我儘な子に育てた私たちのせいでもあるし」
結衣、は、俺の三つ下の妹だ。
「結衣?結衣が、どうかしたの?母さん」
「あなたは当時、出張だなんだ、で、多忙だったから知らないわね、結衣の元旦那様よ、陽平くん」
「陽平くんが...結衣の...?」
理一を抱いたまま、俯き、立ち尽くしている陽平くんをつい瞬きも忘れ、見つめた。
結衣の...旦那が陽平くん...?
「一年くらい前だったかしら。私は子育てに向いてない、仕事に復帰するから離婚したい、て言い出したのよ」
「結衣が...そんな我儘を...?」
子供の頃から、結衣は上に兄が二人いて、ようやく出来た、女の子、という事もあり、父や親戚はやたら可愛がり、我儘だったのは覚えてはいる。
「それより、陽平くん、理一を見せて?」
「あ、は、はい」
陽平くんが抱いていた理一を母が抱き上げた。
「随分、大きくなって...でも、今はそれどころじゃないわね。陽平くん、病院は?」
「あ、行ってきました、薬も貰って...」
陽平くんは慌てて持っていたトートバッグから病院で貰ってきたのだろう、処方薬の入った紙袋を母に手渡した。
「粉薬なもので、理一、ぐずってなかなか飲んでくれないと思うんですが...」
理一を抱いた母が、大丈夫、と陽平くんに笑顔を見せた。
「子供は薬を飲みたがらないものよ。ずっと大変だったでしょう、陽平くん。理一は私が預かるから、たまにはゆっくりしてちょうだい」
目を真ん丸にし、固まっていた陽平くんが、はい、と小さく頷いた。
「誠、陽平くんを頼んだわね」
「や、理一を頼むのは俺だけど...」
理一を抱いた母が微笑んだ。
「ずっと仕事に慣れない育児に、大変だったでしょう、たまにはゆっくり休んで貰って?ね?陽平くん」
「あ、ありがとうございます...」
陽平くんが涙で声を震わせ、頭を下げた。
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