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第14話

理一が風邪を引く度に、陽平くんは休みさえ潰し、看病に当たっているのか、と俺は知らされた。 あの狭い部屋で。 運転する俺の背後、額にひんやりシートを張り眠る、理一を抱いている陽平くんがいる。 実家は車で15分程の場所だ。 が、実家に近づいている矢先、陽平くんが、 「や、やっぱり、その、大丈夫です」 と、遠慮した。 「ここまで来たんですし、母も子供を三人育て上げてますから」 そうして、久しぶりの実家。 ぐったりしている理一を抱き、陽平くんはかなり戸惑っている様子。 致し方ない、と思っていた。 「あら...陽平くん?誠も久しぶりだけれど...」 「ご、ご無沙汰しています」 理一を抱いたまま、陽平くんは慌てて母に頭を下げた。 何のこと...と思った。 「こ、こんな形でご挨拶なんて、申し訳ないです...」 「陽平くん...陽平くんは何も悪くは無いわ。責任は全て結衣、末っ子で一人娘なせいか、あんな我儘な子に育てた私たちのせいでもあるし」 結衣、は、俺の三つ下の妹だ。 「結衣?結衣が、どうかしたの?母さん」 「あなたは当時、出張だなんだ、で、多忙だったから知らないわね、結衣の元旦那様よ、陽平くん」 「陽平くんが...結衣の...?」 理一を抱いたまま、俯き、立ち尽くしている陽平くんをつい瞬きも忘れ、見つめた。 結衣の...旦那が陽平くん...? 「一年くらい前だったかしら。私は子育てに向いてない、仕事に復帰するから離婚したい、て言い出したのよ」 「結衣が...そんな我儘を...?」 子供の頃から、結衣は上に兄が二人いて、ようやく出来た、女の子、という事もあり、父や親戚はやたら可愛がり、我儘だったのは覚えてはいる。 「それより、陽平くん、理一を見せて?」 「あ、は、はい」 陽平くんが抱いていた理一を母が抱き上げた。 「随分、大きくなって...でも、今はそれどころじゃないわね。陽平くん、病院は?」 「あ、行ってきました、薬も貰って...」 陽平くんは慌てて持っていたトートバッグから病院で貰ってきたのだろう、処方薬の入った紙袋を母に手渡した。 「粉薬なもので、理一、ぐずってなかなか飲んでくれないと思うんですが...」 理一を抱いた母が、大丈夫、と陽平くんに笑顔を見せた。 「子供は薬を飲みたがらないものよ。ずっと大変だったでしょう、陽平くん。理一は私が預かるから、たまにはゆっくりしてちょうだい」 目を真ん丸にし、固まっていた陽平くんが、はい、と小さく頷いた。 「誠、陽平くんを頼んだわね」 「や、理一を頼むのは俺だけど...」 理一を抱いた母が微笑んだ。 「ずっと仕事に慣れない育児に、大変だったでしょう、たまにはゆっくり休んで貰って?ね?陽平くん」 「あ、ありがとうございます...」 陽平くんが涙で声を震わせ、頭を下げた。

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