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第6話

芝生を敷き詰めた中庭を男女とりまぜた子供たちが元気に駆け回っている。 長閑な陽射しが燦燦と降り注ぐ中、木漏れ日に斑に染まる中庭には笑いが絶えず、平和なひとときが過ぎていた。 「よし」 ズボンの横で手汗を拭い、勇気を奮い立て一歩を踏み出す。 正直逃げ帰りたい気持ちもあった。また口を利くなど冗談じゃない、さっきの二の舞にどうするんだと理性が引き止めるが、真実を確かめたい欲求が紙一重で恐怖心に勝る。 スナイパーライフルは持ってない、部屋においてきたままだ。もしまた襲われたら……瞼の裏でトラウマが爆ぜる。ピジョンはかぶりを振り、からっぽの手をぐっと握りこむ。 「馬鹿だな。必要ないだろ」 喧嘩しに行く訳じゃないんだ、話をしに行くだけだ、したがって武器は必要ない。 ピジョンは大きな思い違いをしていた。スナイパーライフルをひっさげた初対面の人間に悪者扱いされたら、誰だって気分を害して攻撃的になる。話し合いの建前を通すなら最初から銃をおいてくるべきだったのだ。 深呼吸で冷静さを呼び込み、胸の内で膨れ上がる恐怖を凪がす。 無防備に持て余す手を自然と胸に持っていき、弟とペアのドッグタグを掴む。 離れ離れでもお互い肌身離さず身に付けている、これはお守りだ。ドッグタグに触れていればどんなに怖くてもほんの少し勇気をもらえる。 ここで逃げたら本当に負けだ。 一方的に押し倒され辱められて、挙句何も知らずに泣き寝入りなんて、そうなったら全面的に敗北を認めざる得なくなる。 恐怖を克服し、躊躇いを吹っ切るように歩幅を広げて回廊を歩く。 「あの」 緊張に掠れた声を絞り出す。回廊の柱の影に立っていた男が胡乱げに振り向き、ピジョンを見るなり下品な笑みを浮かべる。 「アウルの|お気に入り《ベイビー》じゃん。お部屋ひきこもってめそってたのか、目ェ真っ赤だぜ」 「ッ……」 「おー怖、睨むなって。ちょっとした冗談、悪ふざけだろ。人けのねー墓場に連れ込まれたら、ファイトのゴングが鳴ったって勘違いしちまうのがギャングのならいなもんでね」 へらへら笑ってピジョンの神経を逆なでし、鉄砲に見立てた人さし指を彼に向ける。 男の正面で立ち止まったピジョンは、警戒心に尖った口調で質問する。 「ギャングなんですか?先生とはどんな関係……」 「腐れ縁。アイツが賞金稼ぎやってた頃にツルんでたのさ、もう二十年近く前のこった」 「そんなに長い間」 「誰にでもある忘れたい過去ってヤツ、清く正しくおキレイで在りたい神父さまの黒歴史よ。お前は」 「ピジョンです。ピジョン・バード」 「ビンゴ」 「え?」 男の呟きを聞き咎める。 「こっちの話。にしても鳩ねェ……親は何考えて付けたんだ?」 「平和の使いになるように祈って……かな」 「賞金稼ぎになっちまって皮肉だな」 ほっとけ。 スワローほど無礼にも大胆にもなれないピジョンは口を引き結んで男の嫌味を黙殺する。 男はパイソンのブーツで煙草を踏み消し、新しい一本に火を点けて咥える。 「爺さんの口利きで弟子入りしたんだって?シケた野郎でがっかりしたろ、とてもじゃねーが伝説の狙撃手にゃ見えねー。引退してからこっち表舞台にゃさっぱり出てきやがらねェし、他人に手柄を売り付けて自分の痕跡を消して回ってる節がある。ま、ガキどもに囲まれてふやけた余生を送るにゃ都合がいいか」 墓場で見せた殺気が失せればただのがらが悪い男だ。再戦を仕掛ける気はなさそうでひとまず安堵する。 言いたいことは山ほどあれど思わせぶりな口吻にまんまと釣られ、神父の過去への好奇心が上回る。 「昔の先生ってどんな人だったんですか」 キマイライーターに優秀な元賞金稼ぎとして紹介されたが、ピジョンは神父の過去をよく知らない。 本人が語りたがらないため触れるのを避けてきたのだが、隠されれば隠されるほど興味が募りゆくのが人情だ。 尊敬する師の武勇伝を知る貴重な機会に恵まれたなら、乗っからない手はない。 「女子供に優しくて悪者にゃ容赦ねェ」 「今と同じだ」 「んで色ボケ」 「デマだ」 「デマじゃねーよ、手あたり次第に唾付けちゃいねーけどこれって決めたらそのオンナのことっきゃ考えられなくなる厄介な性分だ」 「一途で素晴らしい」 「狙撃の腕はヤバかった、夜に行動すんのを好んだのが通り名の由来だ。凄まじく夜目が利いて、どんな手ごわい獲物も一発で仕留めにいった」 「先生の通り名って……」 「聞かされてねーの?マジ?ウケるー、弟子名乗っときながらなんも知んねーのな」 「ほ、本人が話したがらないのに無理強いできないじゃないか。なんかタブーっぽいし、嫌な事があって賞金稼ぎやめたんなら地雷踏みたくないし、知らなくたって修行に支障はないし……それに」 「それに?」 「どこかのだれかに意にそわない通り名を付けられたなら傷をほじくりたくない」 リトル・ピジョン・バードを通り名として勝手に登録された痛恨の念を込めてピジョンが断言すれば、一瞬あっけにとられた男が愉快げに笑いだし、盛大に紫煙を吐きだす。 「今度聞いてみろよ、現役時代に何人殺したって。おもしれー顔すんぜ」 やっぱりこの人苦手だ。 「先生はラトルスネイクって言ってたけど、それって通り名ですよね。なんて呼べば」 「ご主人様」 「先生とは師弟関係を結んでるけどあなたは赤の他人だし主従関係は結んでません」 「ノリわりぃなーーんじゃどこでも即脱皮の絶倫君主」 「倫理に反するから嫌です」 英俗語のラトルスネイクには危険人物や悪意に満ちた奴という意味がある。この男にぴったりだ。 「先生の腐れ縁ってことは、賞金稼ぎとギャングを二股してるんですか」 「なかなかレアだろ?」 「自分の首を締めるのが好きなんですね。蛇だけに」 「言うじゃん」 ラトルスネイクが面白そうにサングラス越しの眸を眇める。物騒な眼光に気圧されてあとじさりたくなるのをどうにか堪え、男に抗議する。 「墓場で……なんで。負けそうになったのが悔しかったんですか」 「調子のんなガキ、ありゃわざと手ェ抜いたんだ」 「だからってあんな、最低だ。不意を打って力ずくで」 「あとんなって吠え面かくなら賞金稼ぎなんて辞めちまえ、罠だズルだ喚いてたらお人好しに付け込まれる」 「開き直るなよ」 「とっとととどめさしゃよかったんだ。したら万々歳、キズモンにならずにすんだのに。あ~でもヴァージンじゃねーならどうでもいいか、ケツ穴の具合よかったもんな。先生は手取り足取り腰取り、あっちの面倒も見てくれてんの?」 挑発に乗るな、思うツボだ。 掌の柔肉に爪が食い込むほど拳を握りこみ、苦渋の面持ちで吐き捨てる。 「……確かに俺が甘かった。勝ったと浮かれて油断していた」 詰めの甘さをなじられたら悔しいかな認めざる得ない。 あの時ピジョンは自らサングラスを拾い、無防備な隙をさらして男へと近付いた。 反撃の可能性に少しも思い至らず警戒を怠った己の未熟さが、恥ずべき事態を招いたのだ。 殊勝に反省するピジョンに男は気分を良くし、下卑た笑みで揶揄を投げる。 「ガンパウダー嗅いでハイになんのはガンファイターのお約束よ、お前だっていい塩梅に」 「俺はスナイパーだ。あなたとはちがう」 きっぱりと言いきり、意志とプライドで恐怖を捻じ伏せ、強固な眼差しで男に挑む。 「ひょろくて女々しいガキのくせしてヤられかけた直後に俺様ちゃんに喧嘩売るなんて命知らずだな、構ってほしいのか?ん?」 柱にもたれた男が茶化せば、ピジョンは片方の二の腕を掴んで小刻みな震えを押さえ、怒りを抑圧した眼差しで口を開く。 「真っ暗い坑道でコヨーテに追いかけられたことありますか」 「あン?」 「コヨーテにたかられて尻の穴まで弄ばれたことは?尻の穴にべとべとの飴玉を突っ込まれたことは?奥までもぐりこんだその飴玉を、指を攣りかけながら自分で掻きだしたことは?」 くり返し夢に見るあのおぞましい体験に比べたらガンパウダーを塗りたくられる程度なんでもない、笑って流せる悪ふざけだ。 この程度の悪意に屈するほどピジョンは安くないし、スワローのしごきのおかげで見た目よりずっと打たれ強くできている。 瞠目して心を落ち着け、スワロー一流の不敵な笑みを追憶し、せいぜい虚勢を張って唇を吊り上げる。 「|蛇毒《ガンパウダー》も抜けたし、|幼稚な前戯《ベイビーステップ》はすぐ忘れますよ」 うわべだけでも弟の笑みを真似るのに成功すれば、ラトルスネイクが何事か感じ入ったように仄白い紫煙を燻らす。 「似てねェと思ったらそうでもねェのな」 「?」 言葉の裏の真意を問い詰めるより早く、ピジョンのもとへ足音が駆けてくる。 「ぴーーーじょーーー」 反射的に顔を上げれば、何かを後ろ手に隠したシーハンと、そんな彼女を押し出すようにしたチェシャが並んで立っている。 「ピジョって、今呼び捨てにしたの君?」 「うん。何か問題でも?」 「えっ……ないけど」 堂々と答えるチェシャに怯んで口を閉じ、その場に屈んで視線の高さを合わせる。 「俺に何か用?」 先程まで向こうの芝生で花を摘んでいたチェシャとシーハンを等分に見比べる。ピジョンの問いを受け、チェシャがニヤニヤ笑ってシーハンの脇腹を小突く。 シーハンは恥ずかしそうに俯くものの、チェシャに促されて一歩を踏み出し、上目遣いにピジョンの顔色を窺ってもじもじする。 「頭だして」 「こう?」 「もっと」 チェシャの指図通りこうべをたれれば、正面に向かい合ったシーハンが両手を前に出し、ピジョンの頭にシロツメクサで編んだ花冠をのせる。 「朝のお礼。あげる」 「ありがとう」 「やったねシーハン、喜んでくれた」 「うん……」 もとより恥ずかしがり屋で引っ込み思案なのか、花冠を渡したそばからチェシャの背中に隠れ、ちらちらとピジョンを盗み見る。 「本当に嬉しいよ、上手にできてる。頑張ったんだねシーハン、チェシャも……」 「ピジョもよく似合ってるわよ」 「あはは……花冠なんて被るの何年ぶりだろ、昔母さんと編みっこして以来だ」 「私もお花集めるの手伝ったんだから、もっとうんと褒めてよね」 「ほんとすごいよチェシャ、えーと……ピンクがかったのを所々挿し色にしてるあたりセンスを感じるよ」 チェシャが威張って胸を張る。 幼い心遣いが純粋に嬉しく、花冠の安定をはかりながら照れれば、そこへハリネズミの男の子が走ってきて大袈裟に騒ぐ。 「何それいいなー、俺も欲しい!」 「え……」 「ハリ―はダメよ、これはシーハンがピジョのために編んだんだから」 「えー」 ハリ―と呼ばれた男の子が大袈裟に羨ましがる。 チェシャの背中からほんの僅か顔をのぞかせたシーハンが、申し訳なさそうにハリ―をチラ見し、ピジョンを振り返ってから視線を戻す。 「……ごめんね」 「なんだよそれ!ずるい!俺も欲しい花冠欲しい!」 「うっさいなー、これでガマンしなさいよ」 芝生に大の字に寝転がって駄々をこねるハリ―にあきれ、その場で雑に編んだ花冠を投げ付けるチェシャ。 むくりと起き上がりあちこち綻びだらけのチェシャの花冠を見たハリ―が、しっぽと手足をばた付かせ再びごねはじめる。 「残念賞はいやだ!!」 「なんですってえ!?」 チェシャが猫耳としっぽを逆立てハリ―に襲い掛かり、間一髪それを躱したハリ―と追いかけっこをくり広げる。 「チェシャ、ハリ―も……花冠なら二人のも作ってあげるから喧嘩しないで」 一人残されたシーハンはおろおろし、途方に暮れてピジョンを仰ぐ。 「ええっと……ごめん、さすがに俺の手に余る。シスターモニカを頼ってくれると嬉しい」 「うんそうする」 あっさり肯定され少しだけプライドが傷付く。そんなに頼りないか俺? 畑を耕すシスターモニカのもとへ行く間際、シーハンははにかみがちに手を振り、ピジョンも片手を振って応じる。 「じゃあね」 「またね」 3人が賑やかに駆け去るのを待って振り向けば、ラトルスネイクは柱の後ろで沈黙していた。 「行きましたよ」 ピジョンがチェシャとハリーの仲裁を辞退したのは、気まずそうなラトルスネイクを慮っての事だ。 せっかく指をさして教えてやったのに、ラトルスネイクは仏頂面のまま「あっそ」と返すのみ。 その反応で予感が確信へ変わったピジョンは立ち上がり、花冠を頭から外して尋ねる。 「シーハンの関係者ですか?」 もっと適切な呼び方がある気がしたが、何故か躊躇われた。 シーハンは蛇の遺伝子を受け継ぐミュータントだ。右半身に備わる鱗とのっぺりした灰緑の肌色から、ラトルスネイクも蛇のミュータントなのは想像に難くない。動物に比べ爬虫類のミュータントは個体数が少ないため、血縁と考えるのがまず妥当だ。 否、ピジョンは窓越しに回廊にたたずむラトルスネイクを見た時から、彼がシーハンの身内である漠然たる確信を持っていた。 「瞳の色おそろいですね」 「おそろゆーなきしょ」 「きしょって」 目の前の無頼漢と奥手なシーハンはまるで似てないが、インペリアルトパーズの美しい瞳だけはそっくりだった。 ピジョンは唇を噛んで俯く。 彼がいてもたってもいられず駆け出したのは、遠くシーハンを見詰める男の目の色が、トレーラーハウスの傍らで息子たちを見守る在りし日の母の眼差しを彷彿とさせたせいだ。 自分に強姦を働こうとしたゲスなのに、それだけで、たったそれだけで、ピジョンはこの男を憎めなくなってしまった。 「あなたがしたこと許せないけど、その……ろくに話も聞かず借金取りって決め付けたのは謝ります、ごめんなさい」 手の中の花冠がやけに重たい。 「ピンクのベリーショートとかありえないし、サングラスでかくて怖いし、パイソンのレザーパンツにブーツを合わせる服の趣味も最悪で完全にあっち系のヤバい人だと思い込んでました」 「見立ては間違ってねーけど、お前喧嘩売ってんの?」 「まず用件を聞くべきでした」 はるばる身内に会いに来たなら追い返されかけて腹を立てるはずだ。 ピジョンだって切なくて愛しくて気も狂いそうなほどスワローと母に会いたいのだから。 「でも……だったらなんでさっさと入らなかったんですか、シーハンだって会いたが」 「ねェよ」 ピジョンの疑問を断固として遮り、ブーツの靴底で荒っぽく煙草を踏みにじる。 「見るだけでいいや別に。それ以上は余計」 「なんで」 「なんでどうしてって質問多いなさっきから、詮索好きは身を滅ぼすぜ」 「ずっと待ってたじゃないか、門前に座り込んですぱすぱやって……誰が吸殻片すと思ってるんですか、そもそもあなたが紛らわしい真似するから誤解したんだ、こっちは蹴られて押し倒されていいとばっちりだ。せっかく来たなら話してけばいいのに、家族の面会なら皆心得てるし水入らずでんッぐ」 ラトルスネイクが唐突にピジョンの顎を掴み、万力じみた握力で頬肉を搾り上げていく。 「んむぐぐぐぐぐ」 「よーく回る口だなァ、窪みに唾液がたまって灰皿にちょうどいい。いいかよく聞け小鳩ちゃん、俺様がわざわざスラムくんだりの教会に立ち寄ったなァ腐れ縁の腐れ神父に用があったからだ、ここにいんなァ序でだよ序で、どの修道女なら抱けっか値踏みしてたのよ」 「またすぐ悪ぶってごまかして、修道女なんて見てないだろ!ずっと一人だけ目で追って」 「さっきまで威勢よく吠えてやがったくせに、今んなって帰るな話してけって?調子よすぎるぜ」 「シーハンに会えない理由でもあるんですか」 「教えてやんねーよ、お前みてーに地味でおどおどしたのは俺様ちゃんのタイプじゃねー。ボクサーパンツもだせえし」 「襲っといてそれかよ、とんだ襲われ損だよ!」 ギリギリ手を食いこませてから突き放し、痛む頬をさするピジョンを睨む。 確かにピジョンは関係ない。部外者だ。 ラトルスネイクとシーハンがどんな複雑な問題を抱えているにしろ、口をはさむ資格や権利は一切ない。わかっている、わかっているのだそんなこと。 だけど 「あの!」 ラトルスネイクをこのまま行かせてしまうのはどうしても嫌だ。 反射的に振り向いたラトルスネイクの頭に両手を掲げ、ぱさりと花冠をのせる。 「よく似合ってますよ」 その時のラトルスネイクの顔ときたら傑作だった。毒牙を抜かれた蛇のようにぽかんとし、ずれたサングラスの向こうからまじまじピジョンを見返す。 「なんで」 「シーハンが編んだから」 「おこぼれくれるってか」 ラトルスネイクの顔に毒々しいまでに自虐的な笑みが広がり、思い付きが裏目にでたピジョンはあせる。 「じゃなくて……手ぶらで帰らせるのもアレだし、会わないならせめてこれだけでも持って帰ってほしくて……余計なお世話ですけど」 ピジョンは口下手で、胸中で縺れる気持ちを上手く言葉にできない。 ラトルスネイクはシーハンに会わず帰ると言い、シーハンはラトルスネイクが来たことすら知らない。 去り行く背中を引き止めたい一心で、そうする事で在りし日の母の眼差しに報える気がして、気付けばピジョンはシーハンに貰った花冠をラトルスネイクに被せていた。 ラトルスネイクはなんともいえない表情で花冠をむんずと掴むや、捨てるに捨てられず持て余していたが、鼻を押し付けてくんくん嗅ぐ。 「イカ臭え」 「手は洗った」 「図星?」 「ッ!!」 「ガンパウダーは効き目ばっちりだな」 してやったりとほくそ笑むラトルスネイクに完敗し、羞恥で耳まで熱くなる。 「テメェにくれたんだろ。粗末にすんじゃねェ」 「待っ」 胸元に投げ返された花冠を咄嗟に受け止め追い縋るも、ラトルスネイクは既に大股に歩み去り、花冠を片手にぶらさげたピジョンだけが回廊に残される。 「……臭くないよな」 世にも情けない様子で自分の手のひらを嗅いだあと、シーハンがまごころ込めて編んだ花冠を被り直したピジョンはとぼとぼ引き返していくが、寮への入口で立ち止まってまた戻り、ラトルスネイクの置き土産の吸殻を摘まんでポケットに回収する。 「はあ……」 なんでこうなるんだろ。

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