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第10話

アンデッドエンドのボトム、昼なお濃い闇が澱む一角。 ひと昔も前の廃墟のモーテルがゴースト&ダークネスのねぐらだった。 女たちは全部で3人、いずれも界隈で拾ってきた商売女。それぞれが1人の男に奉仕し、赤裸々な痴態を演じる。 ゴースト&ダークネスは賞金稼ぎであると同時に、誘拐・強盗・人身売買などの外道働きに精を出す生粋の悪党だ。 金払いのいい絶倫であり、その上若い男前ときたらさばけた商売女たちは品性にまで頓着しない。 黒い縮れ毛に黒い肌、ブロンドに白い肌、亜麻色の髪に褐色の肌。 外見の異なる3人の女を裸に剥き、ベッドで犯す男は野性味あふれる風貌をしていた。 ツーブロックに刈り上げた黒い短髪、鋭く尖った鼻梁と切れ上がった鳶色の眸の取り合わせに精悍な色気が滴る。 なにより女たちを虜にしてやまないのはその逞しい肉体だ。 厚く鍛え抜かれた胸板と安定した腰、ピストンに合わせて汗光る|割れた腹筋《シックスパック》。 横幅は然程でもないが、雄々しさと若々しさが尽きせぬ精力を放ってギラ付く肢体には、獲物を組み敷き貪るライオンの威風が漂っていた。 実際、彼のセックスは捕食に似ていた。 「あッだめっあっあっそこ、すごっおっき、おかしくなるゥ」 「ゴーストもっとちょうだいもっとほしいっ、アタシのことめちゃくちゃにしてェ」 涎を垂れ流し口々にせがむ女たち。度を越した快楽に蕩け切った顔、官能に震える肉。 ゴーストは意地悪く嗤いつつ枕元の包装紙を開き、白い粉末をすくう。 「きかんぼやな自分ら。ちょい待ってろ、すぐやるさかいに」 唾液と練り混ぜた粉末を、既にして愛液でしとどにぬかるみ、赤く爛れた陰唇に塗り付けていく。 「ぎょうさん食らい」 ライオンの意匠のリングを嵌めた指を潤んだ膣の奥へ進め、粘膜に直に刷り込んでやれば、襞から巻き起こる痙攣に黒い肌の女がヒク付き、口から白濁した泡を噴いて絶叫。 「あっやだっ、ぁっあっ、すごいのくるぅっ!」 「ゴーストねえアタシにもご褒美ちょうだい、アンタのことすっごくよくしてあげるから」 「ずるいアタシが先だってば、ねっねっアタシのあそことお尻にちょうだい、もうこんなぐちゃぐちゃなのわかるでしょ」 女たちは飢え狂ってゴーストに群がる。 亜麻色の髪の女が首ったまにかじりつき、黒髪の女がペニスにむしゃぶりつく。 「ほらほら喧嘩すな、全員一緒にイかせたるて」 ゴーストはフェラチオを続ける女の頭を片手でおさえこみ、もう1人と濃厚なディープキスをかわし、残る手の指を女の蜜壺にじゅぷじゅぷ出し入れ。 1人で3人を相手取る兄をよそに、弟のダークネスは癇癪を起こし、雑誌を床に叩き付ける。 「やっぱ納得できひん、出版社に火ィ付けたる」 「あッあッあッ!!」 「待て待て焼き討ちは、黒こげウェルダンなんて食えた物やないで」 女と絡んだゴーストが苦笑いすれば、ダークは苛立たしげに雑誌を掴んで問題の特集を開く。 「ビッグブラザーは腹立たへんのかい、ホンマならワイらのキメ顔がドーンと見開き占めとったんやで!!」 そこには最近巷を騒がせている若手賞金稼ぎ、ストレイ・スワローの写真がページの半分に掲載されていた。 ダークネスは額に青筋立ててがなり散らす。 「これやこれ、今年度のルーキー部門1位の野良ツバメとかゆーヤツ。なんでワイらさしおいてこないなガキがちやほやされるんや、ビッグブラザーがナンバー1に決まっとるのに」 嬌声が弾けてベッドが壊れそうに軋む中、ダークネスは憤懣やるかたなく腕組みし、ゴミが散らかった部屋を忙しく徘徊。 殺気走った形相で爪を噛み、噛みちぎった切れ端を吐き捨て、続ける。 「ポッと出の若僧が調子のんやないで。天井までカネ積んだんかそれともケツ貸したんか、ワイらの頭ん上でふんぞり返るの胸糞やわ。ケツ青いガキがなめたまねしくさりおって……ほっといてええんかビッグブラザー、ヤキ入れるならまかしとき」 気勢を上げるダークを、兄のゴーストは冷たい嘲笑で諫める。 「おどれはホンマ脳たりんやなダーク、バンチなんか載っても一ヘルの得にもならへんやろ」 「せやけどビッグブラザー、ワイやっぱ一番がええ。こんな結果納得できんわ、ワイらの名前トップ10はおろかどっこにも見当たらへんやん、あんなに稼ぎまくったっちゅーに不公平や」 ダークが拾い上げた雑誌のページを手の甲で叩いて異議申し立てる。兄は女たちを責め立てるのに夢中で弟の扱いがおざなりだ。 ダークは雑誌を狂おしく打ち振って主張する。 「ぎょうさんさらった、ぎょうさん犯した、ぎょうさん殺した。ほならもっとバーン!ドーン!デーン!で見開きで特集されるべきやろ、取材とかじゃんじゃか殺到せなあかんやろ、なんでスルーやねん!!ワイかてピンクパンサー・スタンの独占インタビューでおっぱいぱふぱふされたいんじゃ!!」 「いちいち擬音を絶叫すな、頭の悪さモロバレや」 「一番はビッグブラザーに決まっとる、あないようけ殺したやんけ!!ワイは兄やんがトップとらな認めへんで!!」 ゴーストは起き上がりしな胡坐をかき、対面座位で女の乳を揉みしだいてピストン。 「ワイらの稼業考えたら顔と名前売れるんはデメリットや、商売やりにくうなるだけやてなんぼゆうたらわかる。バンチに載らんかったんは逆にラッキーや、売名に現抜かして自爆するアホの仲間入りしたない」 「せやけど」 「序でにゆーとそのランキングは賞金稼ぎ用や、ワイらも籍だけおいとるけど実態は賞金首のが近いやろ」 「大して違いあらへん。あー胸糞胸糞、なんでワイのかっこええ兄やんさしおいて野良ツバメが一位なんじゃボケ、キメ顔スカしよってからに。ひらめいた。クソひってケツ拭いて便所に流したる」 「ええ加減にせい、ちんちんぶらぶらプリケツさらして恥ずかしいやっちゃな」 部屋のど真ん中でベルトをガチャ付かせる弟を、女を乗せたまま腹筋の力のみで起き上がったゴーストが一喝。 「せやかてビッグブラザー」 引き締まった臀と見事な一物を丸出し、間抜けに立ち尽くすダーク。 「こっちこい」 憎々しげに顔を歪めて舌打ち、ストレイスワローの特集が組まれたバンチを力一杯ゴミ箱に突っこみ渋々兄のもとへ行く。 ゴーストは自分の物で串刺しにした女ごと弟に向き直り、大股を開かせて結合部をさらす。 「あっ、や」 「ツマらんことぐちぐち言わんと、おどれにも分け前や」 喘ぐ女を挟んで向かい合うふたり。 鋭く尖った犬歯を剥き出し、生き写しの顔に捕食者の本能を全開にした笑みが広がる。 「さっすがブラザー、太っ腹」 「あっやっ、待っそんな聞いなっ、ぁあぁっあ」 哀れな女が身悶えるが時既に遅し、下半身はゴーストと繋がったまま後ろに回ったダークネスがうなじに噛み付く。 犬歯の先端が肉を突き破って血が滴り、ダークは恍惚としてそれを啜る。 「女の肉はレアにかぎる」 「フレッシュなうちに食わな」 「ワイら肉食さかいに」 ゴーストとダークネスは女を分かち合って欲を満たす。 互いに生き写しの顔。 されど兄のゴーストはより陰険で狡猾。 弟のダークネスはしばしば愛嬌すら感じられる程の無邪気さで絶対唯一の兄を慕い、敬い、おちゃらけた振る舞いをする。 「だらしない尻やな、イッてまえ」 ゴーストが女をピストンする。 「ずるいでブラザー、ワイが先にコマすんやからな」 ダークネスが後ろから犯す。 「ねえ私もォ」 「もっとちょうだい、身体が火照ってしかたないの」 そこへ残り二人の女が這いずり、じれったげに尻を突きあげる。 廃墟のモーテルで行われているのは、精液と愛液の残滓がむせ返る乱交だ。 ゴースト&ダークネスにとって女はただの肉のかたまり、思うさま蹂躙し食欲を満たすための獲物でしかない。 今しも熱くて柔いかたまりを押し広げ曳き潰し、ペニスを搾り上げる粘膜のうねりを堪能。 「はあぁ~~~あいィ~~~~、ようけ締まるわ」 ダークが感極まった声を漏らしピストン運動を早める。 「こっちも食うてみダーク、クリ押すとええ声出すで」 ゴーストがやんちゃな笑顔で誘い、腫れ上がった陰核をコリコリ揉み潰せば、「あっあッ、ぁあぁ―――――」と大股開きで潮を吹く。 下肢をカクカク痙攣させ達した女の潮を浴び、ダークがいっそ無邪気に面白がる。 「ホンマや、びくびくしながらイってもうたわははっ」 薬を盛られた女たちはセックスで頭が一杯のメスと化し、ゴーストとダークネスは彼女たちを前後、あるいは上下に挟んでさんざんに嬲りものにする。 「んっは、らめもっやめへぇ」 「おっきいこんな、あはっすごっアタシん中いっぱいで壊れちゃうっ」 淫蕩で放埓な女たちの柔肉を貪り、若くしなやかな肢体を凌辱しながら、生々しく息を荒げてゴーストとダークネスは打ち合わせる。 「ええ思いさせてもろたけど、そろそろこの仕事も頭打ちやな」 「なんでやビッグブラザー」 「貧相なガキは買い叩かれる。金持ちの変態どもは目が高いんや、ノミとシラミがぎょうさん沸いた汚いガキは犯る気も削がれるんやて」 「注文多いやっちゃな、突っ込んでまえば同じやろ」 しっとり汗ばんだダークが不愉快げに舌打ち。ゴーストは躁的に笑って弟を宥める。 「先方の要望は健康に肥えて小綺麗なガキや、ボトムの路地裏で拾ってくるんとわけが違うで」 「閃いた!ほなら孤児院からもろてこようや」 「あァ――――――――――――――――ッ!!」 黒い肌の女のアナルに怒張をあてがい、片足を持って犯しがてら、ダークが嬉々として提案。 子供たちを犬猫同等に見なす発言に、ゴーストが形よく剃った片眉を跳ね上げる。 「かちこみかけるあてはあるんかい」 「ブラザー知らんのかい、ボトムにミュータントのみなしごばっか集めとるけったいな教会があるんや。常駐しとるんは修道女と神父だけ、そこのガキなら向こうさんも気に入るんちゃうか」 「前に噂で聞いた。賞金稼ぎ上がりの神父もどきが女とガキ侍らして悦に入るままごとやろ、しょうもな」 「どでかいバックが付いとるんや」 「なんや」 「キマイライーター」 ダークがもったいぶって囁けば、ゴーストは鼻で笑い飛ばして枕元の酒瓶を呷り、自らが貫く女の首をねじって強引に含ませる。 「んっ、く」 女の咽喉が艶めかしく動き、酒を苦しげに嚥下していく。 兄が女に酒を口移しで飲ませる光景を物欲しげに凝視していたダークが、口を開けておねだりする。 「ワイも喉渇いた」 「しょうのないやっちゃな」 ゴーストが酒をらっぱ飲みし、ぐいと弟の肩を掴んで抱き寄せる。 「はアぁ」 「んっあ、ふぁ」 ゴーストの口がダークの口を塞ぎ、舌と舌が絡んでぬるい酒をたらふく飲ませる。 ぴちゃぴちゃと唾液を捏ね回し、溢れた分を意地汚く啜り、ダークが濁った眼で兄を一瞥。 「ンまい」 ダークの咽喉が嚥下するのを見定めたあと、ゴーストは残りの酒を豪快に干す。 「キマイライーターが噛んどるんか」 「結構な額寄付しとるらしいで」 「ふん、どうせポーズやろ。おどれと同じ可哀想なミュータントの子供に施して、人気取りも大変やな」 「生きた伝説とか祭り上げられて前から気に食わんかったんやあのジジイ」 弟の発言にゴーストは束の間考え込む。 「……確かに、見てくれのええミュータントのガキはカネになる」 「大儲けのチャンスや」 女のアナルに怒張を抜き差し、兄へと力を込めて食い下がるダーク。ゴーストは唇を引いてニッと笑い、自分と同じ顔のダークへ囁く。 「リトルブラザーにだけ教えたる。ワイらがバンチのランキングに載らんかったんは編集が節穴とちゃうて、ちゃんとわけがあるんやで」 「わけて?」 「ワイが裏から手ェ回したんや。取引先の1人がバンチの株主さかい、ランキングの不正操作や。悪目立ちで警戒されとおないからな」 兄の暴露にきょとんとするも、次の瞬間おめでたい笑顔が弾ける。 「な――――――――んや、ほならワイらが無名っちゅーんは勘違いか!!」 「せやで、ゴースト&ダークネスはアンデッドエンドでノシとる有名人や」 「最初からそうゆうてやイケズ、うっかり放火してまうとこやった」 「堪忍、おどれがアホかわいくてな」 「強うて賢うてかっこええビッグブラザーがバンチのランキング入りせんなんてンなアホなて思ったんや、ワイらは世界最強のバディやもんな」 「悪いことしたな、ランキング載りたがっとったんに」 「ええてもー、ブラザーが間違うたことするわけあらへんのやから。そっちのが先の仕事がやりやすうなるて判断したんやろ、バンチのランキングなぞ未練ないわ」 彼らのセックスは常にこうだ、だれかを間に挟まねば燃え上がらない。 「殺生な兄やんを許したってやリトルブラザー」 「もちろんやビッグブラザー、アンタはワイの神様さかい」 軽く詫びるゴーストをあっさり許して受け入れ、鼻のてっぺん同士を擦り合わせる。 「やっぱりウチの兄やんは世界一や」 「ホンマにおどれは世界でいちばん可愛いアホたれやな」 ドラッグとセックス漬けで頭がおかしくなった全裸の女を侍らし、何回も何回も絶頂に追い上げながら、ゴーストとダークネスはどこまでもお互いしか見ていない。 鳶色の目に写るのは自分と同じ顔の片割れのみだ。 ゴーストは挑発的に唇をなめ、険のある双眸に闘志を燃やす。 「リトルブラザーのいうとおり、キマイライーター出し抜いたるんもおもろいかもな。所詮ミュータントの成り上がりがボランティア気取りくさってうざいんじゃあのジジィ、ロートルは引退、ぼちぼち下剋上の頃合いや」 「老いぼれの治世は打ち止め、これからはルーキー、即ちワイらの時代の幕開けや」 「弱肉強食の掟やな」 「老いぼれヤギの肉なんてまずうてかなわん、筋張って固いできっと」 モーテルの一室に下品な哄笑が爆ぜる。 うなじにまで至る背中一面には、ライオンのたてがみさながら毛が逆立っていた。 対するダークの背中はなめらかなものだが、代わりに屈強な|顎《あぎと》を開けて咆哮するライオンの顔の刺青があり、『the King of Beasts』―……『百獣の王』の装飾文字が彫りこまれていた。

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