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第3話
壊れた注射器と割れた酒瓶、古新聞が散らばる階段を軽快な足取りで上がりがてらラトルスネイクが嘯く。
「あっさり犯人が割れたな。俺たちが動かなくても|情夫《イロ》が仕返しできたんじゃねーの」
「直接恨みを買いたくないから賞金稼ぎを介したんだろ。スケイルキラーズは執念深いから」
「びびってんのかよ、なっさけねェの」
ラトルスネイクが唇の片端を上げて嘲弄する。同意する気持ちを恋人を庇いたい気持ちが半々でせめぎあい、俯く表情が翳る。
「蛇の娼婦がスケイルキラーズに嬲り殺されたなんてありふれたネタ、食い付く物好きはそうそういない。おまけに懸賞金は格安ときちゃ|賞金稼ぎ《こっち側》に旨味がない。まあ、まずは選ばないよな」
「ゲテモノ食いは俺様ちゃん達だけか。競り合うのがいねーのは助かるが」
他に選択肢があるのにわざわざイロモノを選ぶのは少数派、相当なひねくれものか物好きに限られる。
自分たちはたまたまそのマイノリティに属し、成り行きでコンビを組んだだけの間柄だ。
シンナー臭い階段を踏みしめた拍子に、偶然目が合った相手が色眼鏡越しに問いかけてきた。
「お前はなんで見えてる貧乏くじ引いたわけ」
「教える義理ない」
「あっそ」
「そっちは?」
ラトルスネイクが引き金に見立てた指を曲げる。
「なんでもよかったから。ぶっちゃけ派手にぶっぱなせるヤツのが好みだけど、アウルちゃんにちょっかいかけんの面白そうだし?」
「僕に絡んでも楽しくないぞ」
「楽しい楽しくねェは俺様ちゃんが決めるよ」
「友達いないだろ」
「バレた?」
「バレバレ」
ラトルスネイクは刹那主義で享楽主義だ、ほぼ気分で行動している。組合の出張所でナイトアウルに絡んできたのもたいした理由はないのかもしれない、せいぜいが同じ年格好の賞金稼ぎが珍しかったとか蓋を開けてみれば単純な動機にちがいない。賞金稼ぎの年齢制限は緩く平均寿命はとても短い、四十をこえればロートルの部類だ。ナイトアウルが賞金稼ぎの世界に足を踏み入れて一年弱が経過するが、若くて力が弱いものからどんどん死んでいく。その点自分と同年代でそこそこデキるヤツ……裏を返せば、したたかに生き延びてきたヤツは信用できる。もっとも人間性への信頼には繋がらないが。
実際ラトルスネイクは凄腕の|銃使い《ガンファイター》だ。肩関節の驚くべき柔軟さを生かし、実戦では難しいとされる二挺拳銃も楽々使いこなす。とにかく反動の殺し方が上手いのだ。リボルバーとスナイパーライフル……射程が違うといえど、同じ得物を使うものとしてたぐいまれな実力は認めざるをえない。
「ふーん、イイ感じじゃん。お誂え向きにソファーもある」
「不衛生じゃないか?」
「床で寝たことねーとかお姫様かよオイ、屋根があるだけ儲けもんだろ」
「別に……ちょっと前まで路地で野宿してたし」
ナイトアウルが憮然と口を尖らしライフルケースをおろす。
二階フロアの中央にはスプリングがはみでたソファーが打ち捨てられていた。隅には壊れたピンボール台とジュークボックス……もとはクラブとして営業していたらしい。
「アウルちゃんも来いよ、びょんびょんしよーぜ」
「尻が軽くて結構だな。一人ではねてろよ」
ラトルスは早速ソファーにふんぞり返って寛ぐが、真似する気はおきない。ケースから出したスナイパーライフルを素早く組み立て、向かいのモーテルを望む窓辺に陣取る。スケイルキラーズはまだいない、連中が来るのは大抵夜らしい。ライフルを構え、片目を眇めてスコープを覗くナイトアウルを連れが口笛で茶化す。
「手慣れたもんだな」
「僕にはこれしかないから」
色々試したが、狙撃が一番性に合っていた。スナイパーライフルの長所は至近距離で返り血を浴びずにすむことだ、標的の断末魔を聞かずにいられるならそれに越したことはない。もともと我慢強さには自信があるし師匠にもお墨付きをもらっている。
スナイパーライフルはナイトアウルが生まれて初めて手に入れた「力」だ。小柄な子供でも上手く使いこなせば大人を仕留められる、十二分に悪党を倒せる。
「狙撃手ってその場から動けねーからクソと小便垂れ流しなんだろ?マゾいよな」
「まあね」
否定はしない。
「飯は?片手で食うの」
「シリアルバーとかゼリーとか簡単なものを。専用のレーションも発売されてるし」
「集中してると糖分恋しくなるんじゃねーの」
「お喋りが多いな」
諦めてライフルを下ろす。どんなに熱心に見張っていても肝心の標的が現れなければお話にならない、向かいのモーテルは無人だ。もちろん、そんなことはわかっていた。スケイルキラーズを先回りで待ち伏せするのが二人が立てた作戦だ。
ということは、夜までコイツとふたりきり?地獄じゃないか。
既にラトルスネイクの饒舌ぶりにはうんざりしてきた、彼は躁病を疑うほど口数が多く常にハイテンションではしゃいでる。沈黙と孤独を愛する狙撃手とは本質的に相容れないタイプの|個性《キャラクター》だ。
「的がいねーうちから銃構えて肩こらねェ?休んどけよ」
「姿が見えてから用意したら遅いんだよ、寝過ごしたら目もあてられない」
「そうかよ」
スコープから目を離さず生真面目に答えるナイトアウルに、ラトルスネイクはリボルバーの弾倉を回す。しばらくして高鼾が聞こえてきた。振り向けば寝ている。
「……はあ」
思わずため息が出た。依頼は貧乏くじではないが、パートナーははずれをひいた。気を取り直してライフルと向き合い、スコープの奥の廃墟を覗き続ける。
片手でモッズコートの胸に触れ、小袋を意識する。今回はコイツを使わず済ませたい、師匠にバレたら怒られる。残りも少ないことだしできるだけ節約したい。
スケイルキラーズに殺された娼婦たちの来歴を思い返す。結局声を上げたのは三人目の犠牲者の恋人だけ、後は泣き寝入りだ。前二人に至っては天涯孤独で悼んでくれる遺族さえいない。娼婦の私生児として産声を上げ、やはり体を売って生計を立てる女たちにはよくある話だ。
『くそったれ!!俺の女が、エラが殺されたんだぞ!!』
人の命は平等なんて世迷言だ。
世界はとんでもなく不条理だ。
ならばせめて自分だけは|犠牲者《ヴィクテム》を平等に扱いたい。とうとう報われずじまいだった彼女たちの苦しみや哀しみを胸に刻み付けて引き金をひきたい。
見も知らない女たちを悼み、胸元のペトロクロスを無意識に握り締める。
それから半日が経過した。夜が訪れてもスケイルキラーズは現れない。ナイトアウルが猜疑心に駆られる。
「情報提供者がデマカセ言ったとか?」
「あの状況で?ドタマに銃口突き付けられてハッタリかませるほど肝据わってるようにゃ見えなかったぜ」
ラトルスネイクはすっかり退屈しきっていた。窓辺から動けないナイトアウルをよそにソファーを独占し悠々と寝そべっている。
ふと背後で動く気配がした。
「なー遊ぼうぜアウルちゃん」
「邪魔」
「ロシアンルーレットでもしねえ?俺が回す方、お前が脳天からビッグバンする方」
ラトルスネイクがしなやかに擦り寄ってくる。ライフルから手が離せないナイトアウルがうざったげにあしらっても構わず、モッズコートの背中に張り付いてきた。
「離れろって」
耳朶に吐息を吹きかけられぞくりとする。チロチロと二股の舌がチラ付く。ナイトアウルが無視に徹するほど調子に乗り、たちの悪いイタズラの数々を仕掛けてくる。
肩を揺すって振り払ってもへこたれず、肘で突き放しても引き下がらずのしかかり、ちゃちな鎖の先端の十字架をすくいとる。
「おもしれーロザリオ。さかさまだな」
「ペトロクロスだよ。聖ペトロがしてた」
「誰それ?知らねー」
「だろうね」
「バカにしてる?」
「まあね」
他人にべたべたされるのは不愉快だ。スナイパーライフルを手放して突き飛ばすか一瞬迷うも、結局耐え抜く道を選ぶ。ラトルスネイクが素朴な疑問を呈する。
「なんで組合にきたんだ」
「協調性を身に付けてこいって師匠に言われたんだ。じゃなきゃ賞金稼ぎとして大成できないってダメだしされた。できるだけ長く細くやっていきたいんだよ」
素直な答えが滑り出たのは彼もまた倦んでいたから。ラトルスネイクが喉の奥で嘲る。
「ハッ、なんだそりゃ?賞金稼ぎは鉄火場の徒花、太く短くパッと弾けんのがモットーだろ」
「お前の信条は否定しないよ。でもそれは僕の生き方じゃない」
ラトルスネイクが機嫌を損ねたのがわかった。譲歩を侮辱ととるタイプなのだ、きっと。
「……可愛くねェ」
「お互い様だね」
ぶすくれたラトルスネイクを受け流す。次の瞬間ふくらはぎを蹴られた。想定内だ。やり返すのは大人げない。
「!ッぁ、」
耳たぶを噛まれた。想定外だ。スナイパーライフルを意地で掴んだまま殺意を込めて睨む。
「僕にだけ言わせるのはずるい。そっちも言えよ、なんで組合に来た?」
「強情っぱりの狙撃手さんとおんなじだよ、上に命令されたんだ」
「師匠に?」
「|後見人《パトロン》のが近ェけど。蟲中天は知ってるよな、|快楽天《チャイナタウン》で幅利かせてるマフィア。もとは蟲系ミュータントの互助団体だったんだが、今じゃ根腐れして悪徳に染まってやがる。俺様ちゃんの後見人はそこの|大哥《ダアコー》……お偉い幹部なのよ」
「へえ」
自分と似た境遇にほんの少し共感が湧いた。ラトルスネイクは話し続ける。
「ンな訳でまあまあ可愛がってもらってんだが、切り込み隊長任された前回の抗争でちょいとやりすぎちまってさ」
「やりすぎって」
「想像におまかせちゃん。一人で突っ込んでったのが祟ったんだよ、しばらく謹慎くらっちまった。どのみちほとぼり冷めるまで帰れねーし、ちょっとは人との合わせ方おべんきょしてこいとさ」
「『脱皮しない蛇は滅びる』だな」
珍しく言葉を濁すので深くは追及せず納得したふりをする。
実の所マフィアと賞金稼ぎの二足のわらじをしている裏社会の住人は多い、賞金稼ぎの免許さえとっておけば組織を破門になっても食いっぱぐれずにすむからだ。ラトルスネイクの後見人はそれを見越した上で、秘蔵っ子を修行に出したのだろうか。
窓の外では疎らなネオンが点滅していた。ナイトアウルはささやかな好奇心を芽吹かせて尋ねる。
「後見人ってどんなひと」
「スキモノ」
予想外の返しに向き直れば、ラトルスネイクがしてやったりと笑っていた。場違いに無邪気な顔。続けてなんでもなさそうに付け足す。
「俺を裸にしてペットの大蛇と絡ませるのが趣味。年だから勃たねーんだよ、気の毒に」
右半身の鱗が艶やかにネオンを照り返す。ベッドに横たわるラトルスネイクが大蛇と絡む光景を悦に入って眺める老人を想像し、こみ上げる吐き気に顔を歪める。
「さすがにドン引き?品行方正なアウルちゃんには刺激が強すぎたか」
ネオンが暴く顔色の悪さがバレたのか、ラトルスネイクがさしのべる手を咄嗟に振り払い……直後に後悔した。
「……ごめん」
馬鹿、ちがうだろ。謝ったって惨めにするだけだろ。
失態の上塗りに臍を噛み、じれったげに俯く。いや、そもそもコイツが真実を言ってる確証もない。からかわれたのか?動揺するナイトアウルをネオンを透かす琥珀の瞳で小揺るぎせず見詰め、ラトルスネイクが囁く。
「何びびってんの?」
するりと手がのびてくる。ナイトアウルは身を強張らせ、ラトルスネイクに頬を包ませる。
『可愛いですよ、もっと唄いなさい』
キツく目を瞑り醜悪な幻を打ち消す。
ラトルスネイクの手は|黒色火薬《コルダイト》の匂いがした。香油くさい神父の手とは違い心を許せる匂い……同類の匂いだ。
ナイトアウルは深呼吸する。
「……僕がこの依頼を受けた理由は、誰かがドブの|塵芥《ちりあくた》をさらって掃き溜めを掃かなきゃいけないからだよ」
どのみちこの手に染み付いた匂いがとれないのなら、とことん汚れきってやろうと。
今ここにいる理由をハッキリ告げ、冷えた諦観を帯びた瞳で見返す。
サングラスのレンズにネオンが弾け、尖った犬歯を剥く表情をドギツく彩る。
「糞だめに手を突っ込んで悪党の心臓握り潰すなんて立派な心がけじゃん」
「正義を成そうなんて思ってない。どちらかといえば必要悪さ」
どんな外道だろうと人が人を誅す行為を正義と自惚れたくない。
だからこれはただの自己満足、ただのエゴだと自戒して繰り返す。
「必要悪は必要だから悪なんだ」
この世界には致命的な欠陥がある。
人殺しを罪と定めるなら、人を殺す悪を成さねば回らない世界自体が間違っている。
思い詰めたナイトアウルの横に無造作に寝転び、緩やかに揺れるペトロクロスをチィンと弾く。
「悪とか正義とか難しいこた考えず胸糞悪ィの片っ端から消してくスタイルのがシンプルじゃね?」
「好きと嫌いで塗り分けて?善も偽善も見分けが付かないのに?」
「ごちゃごちゃ考えてると嫌にならねーか」
先に動いたのは向こうだ。ナイトアウルに極端に顔を近付け、小さく念を押す。
「ヴァージンじゃねェよな」
「試してみるか」
離れた路地から喘ぎ声が聞こえてきた。街娼が客をとっているのだ。わざと挑発的に切り返し、流し目を送る。正直、火薬の匂いを嗅いだ時から疼いていた。ナイトアウルはふしだらに微笑み、ライフルを下ろして彼を迎え入れる。
「暇潰しがしたいんだろ」
ナイトアウルは鈍感なほうではない、ラトルスネイクが自分を欲しがっているのにはとっくに気付いていた。仕事の前にさかる手合いはたまにいて、ナイトアウルも襲われた経験があった。その時は辛うじて逃げきったものの、以降同業者と組むのを避けるようになる。
今回は合意だ、ナイトアウル自らの意志で身体を明け渡す。標的は当分現れそうにないし、コイツの悪ふざけに付き合ってやるのもいい。
「海綿体に血が行きすぎて本番でトチられちゃ困るからな。ヌイてやるよ」
ナイトアウルは淫乱な性質を自覚している。幼い頃よりあの手この手で開発・調教された身体は、少しの接触で容易く熱を帯びる。
「そうこなくっちゃ」
ラトルスネイクがナイトアウルをソファーに引っ張っていく。押し倒されたはずみにモッズコートが広がって前髪がばらける。首筋に性急なキス。シャツの下をまさぐられるこそばゆさに身じろぎ片手を突き出す。
「待て」
「ンあ?」
「僕が下?」
「上がいいの?」
「じゃなくてさ」
肘を付いてゆっくり上体を起こす。シャツが捲れた胸板でペトロクロスが揺れる。
「勝負しないか?先にイかせた方が突っ込む」
ラトルスネイクが盛大にしらける。
「えー面倒くせェ、お前が女役でいいじゃん」
「痛いのは嫌だ」
「痛くねェよ」
「突っ込む方はみんなそういうんだ」
セックスすること自体は構わない、力ずくでレイプされるより遥かにマシだ。そもそもナイトアウルはヴァージンではないし、出し惜しみするほどの貞操観念も持ち合わせていない。ラトルスネイクがしたいというなら譲歩もするが、一方的に負担を請け負わされるのは苦痛だ。
ラトルスネイクがたまらず笑いだす。
「俺が喘ぐトコ見てェとか趣味わる」
「言いっこなしだろ」
どうあがいても突っ込まれる方が痛いし苦しいのだから、どちらが女役に回るかはフェアな手段で決めたい。起き上がりしなラトルスネイクの鎖骨のふくらみを吸い立てる。
「さかさまになれ」
ペトロクロスみたいに。
「ぜってェ泣かせてやる」
ナイトアウルに促され、ラトルスネイクが後ろ向きになる。いわゆる69スタイルだ。両足が顔を跨ぎ、股間が目の前に突き付けられる。お互いのズボンを緩めてずらし、下着から零れた性器をまずは手でしごく。
ラトルスネイクのペニスは煙草の火傷の痕があった。闇に目をこらせばさらに夥しい古傷が浮かび上がって息を呑む。
「お前の後見人すごいサディストだな」
「これは違ェよ、また別の。はは、毛の本数じゃ勝った」
股間に直接あたる息がくすぐったい。ためらいがちにペニスを捧げ持ちしごきだす。右半身の鱗も性器までは及ばず赤黒く猛っている。ラトルスネイクも負けじと掌で擦り立て、鈴口から盛り上がる先走りを練りこんでいく。
「ンっ、ふ」
お互い服は着たまま、ズボンと下着だけを寛げて性器を愛撫する。ナイトアウルのペニスは上品で形が良い。二人とも皮は剝けている。
手の中で育ち始めたペニスを見詰め、煙草の痕が痛まないか気遣い、丸く張った亀頭を含む。シャワーを浴びてないせいで汗臭く塩辛い。
「ンっむ、はふ」
詰め物される息苦しさにしめやかな涙の膜が張る。口の粘膜を潤んだ性感帯に変え、根元から先端までしゃぶるのにのめりこむ。ぬるい唾液をよくこねて塗し、喉の奥まで圧迫する質量にえずきそうになるたび息継ぎを挟んで竿をなめ回す。
「ッぁ、うっ」
「どうしたよ降参か、口ほどにもねえ」
「る、さいな。すぐでっかくなるから、苦しいんだよ、かはっ」
「こっちは飼いならされてんな」
ラトルスネイクの顔は見えないが、弾んだ声色から伝わる優越感が憎たらしい。器用に踊る二股の舌がチロチロと鈴口をねぶり、両手がやわやわと袋を揉みほぐす。
「ッは、ぁふ」
「ッははっ、手がお留守だぜ」
「もっとペースおとせよ、ンっむ、歯が当たりそうで怖い」
薄暗い廃墟の中、情欲高まる息遣いと衣擦れを響かせて対になった少年たちが前戯に耽る。
じゃれあうように探り合い絡め合い、互いの弱い所を狙って主導権を奪い合い、くるくると昇っては堕ちていく。
テクニックなら互角と思いたかったが、やっぱりラトルスネイクに軍配が上がる。幼い頃からさんざん神父の調教を受けたナイトアウルが、気付けば責められる一方になっていた。
「ふッ、ンくっ、んンッ」
恥骨の奥が疼いて知らず腰が上擦っていく。ラトルスネイクの舌が気持ちよくてたまらない。フェラチオを怠けて呻けば、そのお仕置きとばかり抜き差しを激しくされる。
「ッあ、ァ」
ナイトアウルは片手にペニスを持ち、先走りと唾液が混ざった汁で顎を濡らしてよがる。口の中はドロドロに蕩けて瞳も潤んできた。対して、ラトルスネイクはまだ余裕がある。
「ん――――――――――ッ!!」
来た。ナイトアウルが腰をわななかせて突っ伏し、精を大胆に飲み干したラトルスネイクが顎を拭って勝利宣言をする。
「俺様ちゃんの勝ち。いただくぜ」
ラトルスネイクが脚を割り開き、アナルの綴じ目をほぐしていく。一度果てたナイトアウルはぐったりしていた。
「好き、に、しろよ。ンっ、ふぁ」
アナルにツぷりと指が沈む。括約筋の弾力を楽しむように中でひねり、二本に増やす。ナイトアウルは手の甲を噛んで声を殺すも、直腸にもぐりこんだ指に前立腺のしこりを掻かれ、窄めた爪先がソファーを蹴る。
気持ちいい。気持ち悪い。下半身から湧き上がる悪寒と快感がせめぎあい、ピンクの乳首は完全に勃ちきって、精液に塗れたペニスが再びもたげはじめている。
「感度は上々」
「さっさと挿れろ、ッぁ」
二股の舌先が執拗にカリ首をくすぐって鈴口をなぞり、ねちっこい前戯にどうかしそうで叫ぶ。剥き出しの白い臀に怒張があてがわれる。
「飛べよアウル」
「~~~~~~~~~~~~~~~~ッぁアアあ」
アナルをこじ開けた熱のかたまりが直腸を犯し、前立腺を突く。ナイトアウルは汗みずくでよがり狂い、叩き付けるようなラトルスネイクの腰の動きに合わせていく。
「ハハッ、超イイ顔!べそかく位気持ちいいのかよ、よかったなアウル!ケツ穴が食いちぎりそうに締め付けてくるぜ、すっげー熱くて溶けちまいそうだ」
「うるっ、さ、だまれ、ンっく、ふっゥ」
しどけなく捲れた前髪の下、片手で目元を隠すナイトアウル。断じてラトルスネイクの首の後ろに回したりはしない、甘ったるく抱き寄せたりはしない。
「ぁッ、ぁあっ、ンっあ」
甘ったるく媚びた声が止まらない、そそりたったペニスが雫をたらす。やられっぱなしが悔しくて、汗と涙で滲んだ目を瞬いて向かっていく。
「!ッぐ、この」
肩や上腕に噛み付き、かと思えば鎖骨に吸い付いて気を散らす。琥珀の瞳に怒気が炸裂、蛇の瞳孔が凶暴に収縮する。憤激に駆り立てられたラトルスネイクが嘲笑い、前にも増して激しく奥の奥に叩き付ける。
ナイトアウルは意識を手放した。
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