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0-山田
いくら体力のある俺でも、階段ダッシュからの掃除機担ぎ上げ状態で立ってんのはかなりキツかった。故に、駆け足でやってきたこの男に「もっと早く来やがれ」って怒鳴りたくなったのは仕方ない。ま、割と早かったからギリギリ我慢してやったけど。
「よー、澄晴連れて来たぜ。コイツに何の用?」
うっわ、さっきの大男ついて来やがったのかよ。邪魔すぎんだろうがテメェの役目はもう終わってんだよ。この俺様をαごときが囲ってんじゃねぇ気色悪りぃ。
「お前は用済みなんだよさっさと仕事しやがれクソサボリーマン野郎が」
「………は、ぇ…」
初対面のα相手にもしかしたら言い過ぎたかもしれないと一瞬構えたが、そこまで短気な性格でもなかったようで一安心。流石は一部上場企業に入れるエリートさんだな。勿論嫌味だ。
完全に固まっている隣の大男を見て慌ててんのは間違いなく先週俺の匂いに気付いて声を掛けてきたおせっかいクソα。無言のまま目だけで廊下を指せば、ギャグ漫画並みの青い顔で震える足を動かした。念の為パイプ部分をソイツの背中に押し付けて進んでいるが、曲がりなりにもαだ。予測不能な動きをしてきた時には臨機応変に対応しなきゃならねぇ。前も後ろも逃げ道を確保した上でストップをかけた。
「おいテメェ…この間は世話になったな」
「へっ…?!え、あの僕あなたに何かしましたでしょうか……」
「しらばっくれんじゃねぇぞ!」
「はいっ!申し訳ございません!」
あ?いきなり何謝ってんだコイツ。マジで頭おかしいのか?それとも俺を油断させる為の罠?…どちらにせよ警戒するに越したことは無いが、あり得ないくらい腰が低い。
「抑制剤だよ先週の。……俺一人だって別に何とでもなったけどよ、一応その…困ってたから……助かった」
「え?……ぁあ!あなただったんですか!ご無事で良かったです。あの後何もありませんでしたか?」
「何かあったら今頃ココに居ねぇんだよバーカ」
「あはは…それもそうですよね。すみません」
このα…俺がΩって知った上でこの口調なんだよな。普通だったら…いや、この社会のルール自体普通だと思った事なんかねぇけど、もっと乱暴な態度になったり少なくとも敬語は消え失せると思っていただけに何だか妙にいたたまれない。Ω性を恥じる事や隠そうとした事もない俺だが、認めたくねぇが家を出た途端虐げられる人生を歩んできたわけだ。お坊ちゃんでもないごく普通の家庭で育った中で敬語を使わされる事はあれど使われる事なんて無くて……。
これは、コイツは…!
「ひれ伏せぇ!」
「ひぃ〜ッ」
うん、面白いかもしれない。
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