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1-安藤

「…安藤、その手どうしたんだ?」 「あー、まぁちょっとな」 「今度は女性に何をしたんだ…」 「決めつけやめてもろてw」 昼休憩、澄晴は俺の小さな怪我にいち早く気が付いた。心配そうに絆創膏を出してくれる所までは良かったが、その次で残念ながら台無しだ。俺がモテまくるのは周知の事実。でもよ、もう少し事情聞いてくれたって良いんじゃね?俺、今まで女に怒られたり泣かれたりした事無いのよ?管理も上手いから。 「胸掠っただけでぶっ叩かれるのどう思う?」 「消えた方が良いんじゃないか」 「じゃなくて、相手男な!」 「とんだ趣味の持ち主だったんだな…」 「違うそうじゃないんだ」 本気で引いてる顔をするな澄晴、俺の言い方が悪かったのは認めるけども。 わざわざ箸を置いてまで胸元を隠す動作は冗談なのか本気なのか……まあ、本気だろうな。コイツの事だ。 誰がお前みたいな貧相な胸を触りたいと思うか。まだ番のポリなら…細いけどしなやかで、Ωの特徴なのか何処か柔らかな雰囲気を帯びてはいる……が、別に澄晴の嫁に何かしようと企んでいるわけではないぞ。それだけは嘘でも誤解を招かぬよう、下手な事を言うのは辞めた方がよさそうだ。 「名前見ようとしただけなんだよ。あの掃除のにーちゃんのさ」 「…え?」 「なんだよ澄晴知ってんのか?教えろよ」 再びおかずを掴み上げた澄晴の箸は、口元まで運ばれる事無くぴたりと停止した。少し前までカップ麺ばかり食べていて、コンビニへ行くより澄晴を見た方が新商品に詳しくなれるくらいだったというのに。今は殆ど手作りの愛妻弁当だから面白くない。嫉妬しているんじゃない。俺だって作れと言えば作ってくれる女くらいいくらでもいる。ただ、そこに込められている愛情の形がそこらの女から貰うのと澄晴のとじゃ種類が異なるってくらいで。 「仲、良いのか…?あの人と」 「どうだろうな~いつも怒鳴られる。俺は新鮮だから楽しいけどよ」 「んー…そうか」 澄晴の様子がおかしな訳を俺は知る由もない。 ただ考え込むように腕を組むそいつが、俺の知らないヤマダを知っているようで良い気分ではなかった。 「あんまり近づきすぎるのは…良くないんじゃないかな」 「え、なに?お前嫁だけじゃ足りねーのまさか」 「それは断じて違う!」 知ってるっつの。ほんっと冗談が伝わらない奴だ。それも含めて面白いからいいんだけどさ、別に。 「……彼の事、気付いて無いんだよな」 「何を?」 「いや、何でもない…」 「??」 残りの米をかき込んで静かに立ち上がる澄晴の背中を、モヤモヤが募る頭で呆然と眺めた。そして僅かその翌日には、澄晴が言い淀んだ意味を知る事になるのだ。

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