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2-澄晴

「来碧さん、ただいま。…体調どう?」 「……っん、」 自宅の鍵を回す瞬間から、まあ予想は出来ていた。 以前の警戒心の塊みたいな性格がまるで嘘のように、家では抑制剤のよの字も知らない有様で。 玄関ですら感じ取れた強い匂いに理性が持っていかれないよう慌ててリビングへ向かえば、全身を火照らせた彼がそこに居た。 「遅くなってごめん」 「…んとだよ。あと3分遅かったらお前の……昨日のYシャツ洗濯機から引っ張り出してた」 「それはやめて!」 大きめの部屋着を身に着けソファで横になる来碧さんは、時折苦しそうに浅い息を吐きつつも俺の即答にくしゃりと笑う。 なんたってこんなエロ星人…あぁいや、色気のある人になっちまったってんだ。番になる前のヒートといえば、多分人並み以上に症状が重いようで真冬の夜の公園で失神までしていたというのに。 番を結ぶことで症状が多少軽くなると言うのは習った記憶があるが、どうやら本当だったらしい。現に今は体調が悪いというよりむしろ高揚しまくっているように見えるし、傍に置かれている薬のパッケージは開封しようとした形跡もない。 「なんで来碧さんはさ…こうやっていかにも襲ってくださいみたいなカッコで待機してるのかな」 「言葉が無くても伝わるなら、そんな楽な事ないだろ」 「あーもう。……シャワーだけ浴びさせて」 「やだ」 「ねえ!」 こうなった来碧さんは、普段溜め込んできたストレスやら何やらを全部丸ごと投げつけてくるみたいに積極的だ。俺でいう所の酒に当たるものがこの人にとってはヒート中のセックスになる…という事だろうか。何とオイシイ…いやいや違くて、世話の焼ける人だ。 ……こういう時くらいしか、俺も恥ずかしくて全然そういう雰囲気に持っていけないから助かるというのは本音だが。 「な、すばる…キス」 「ぬ、ぅ……本当にもう」 伸ばされた掌をくすぐり、指を絡めれば来碧さんの肩が小さく跳ねた。仰向けの状態で上手く抱き寄せる事は難しく、上下しながら必死に酸素を取り込む胸に手を置けば、尋常じゃないスピードで鼓動を繰り返す心音と硬く尖った突起が自ら触れてくる。 疲れたし、お腹も減ったし、風呂にも入りたい。なのに、そんな欲求はどうでも良い程に来碧さんの匂いは俺をおかしくさせていく。 俺にしか効かない魔法を使って、ただ一人だけを求める来碧さんの瞳に、全部全部吸い込まれていくんだ。 「……1回で済まなそうだけど」 「2回までなら多分…平気」 受け入れる側の来碧さんから許しを得れば もう俺には“我慢”も“遠慮”も必要無い。

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