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2-来碧
「その掃除のΩが自分からバラしに行ったって?」
「うん…止めようと思ったんだけど間に合わなくてさ…」
替えのシーツに張り替え、まだ冷たい真ん中はバスタオルを敷いて諦める事にした。明日もどうせ俺は休みだ。天気が良ければ丸ごと干してしまおう。
スプリングを軋ませ、澄晴の首元に鼻を寄せた。
「んなのソイツの勝手だろ…わかっててやってんなら、そもそも俺とは考え方が違う。俺の意見聞いても…無駄……っ、」
「けど俺にはわからな、い…所とか、気付けるかも……」
澄晴はヒートの俺ばかりに襲ってほしそうだの匂いが強いだのと文句を言ってくるが、それはお前も同じだと言ってやりたい。
俺にあてられた澄晴のフェロモンは徐々に強まり、ベッドで横になるだけのつもりが無意識に脚まで絡め出す。
「澄晴の気持ちはわかるよ…危なっかしい奴、ほっとけないだろお前…」
「ん…まあ、そうなのかも……っ、あちょ来碧さ…膝やめてって……っ」
内腿を撫でるように膝を上げてゆけば、やがて見事に硬くなった澄晴の欲に触れる。
微かに覗く鎖骨に歯を立て、伝わる脈拍の愛おしさにいつの間にか骨の形を舌でなぞっていた。
ああ、やはりヒート中と言うのは身体がまともじゃないようだ。思考も、体温も、コントロールの効かない自身のフェロモンも。
普段じゃ絶対に言えない事を、恥じらいもなく口に出せてしまう。
この言葉が澄晴の最も深い場所に刺されば良いと。一生忘れないでいてほしいと願いながら、肩を押して澄晴に覆い被さった。
「ソイツの事ばっかりになるのは…ヤダ。
お前の番は俺……だし、俺にはお前しか居ないって、覚えとけ…」
「ら…いあさ、──ッ」
澄晴のやり方を真似ただけのキス。舌で歯列を確かめ、僅かに開いた上下の隙間から唾液を落とす。
味わうみたいにそれを舌の上で転がした後、喉奥からはわざとらしい嚥下音が響いた。
澄晴が例のΩに向ける優しさに下心が無いって事はよくわかっている。俺を本当に大切にしてくれている事も、十分伝わっているんだ。
だが、どうしても不安は取り除けない。独りではないという心強さと紙一重で、澄晴が居なくては生きていけない身体のつくりに成り果てた自身の危うさが、この今だってまさに証明されてしまっているから。
「澄晴…俺だって、嫉妬くらいする……」
なんて。そんな甘いものでは無いのに。
それ以外の言葉が悔しいくらい見当たらない。
俺が唯一情けない部分を見せられた人。唯一、生涯迷惑をかけ続ける事を許してもらえた人。
どうか、俺以外を見ないで。
番を結んだΩは、そうか。こんなにも弱くなるんだな。
──結局空が白むまで俺に付き合ってくれた澄晴は半休を取り、午前中いっぱい隣に居続けてくれたのだった。
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