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3-安藤
2人が向かったのは突き当たりの資料室だった。営業の俺達は顧客の情報を調べる為に時々利用するが、生産管理課には無縁の場所。
気付かれないよう息を潜めて扉に耳を当てると、中の会話が少しずつ溢れ始める。
「あの、本当に大丈夫…なんすよね」
「勿論。心配はいらない」
「……あ、そ…」
何の話をしてるんだ。
位置としては、入り口からそう離れてもいない古ぼけた机の辺りってとこか。
早速セックスでも始めるんじゃないかと盗み聞き行為に後ろめたさを感じていたが、そう単純なエロ男でも無かったらしい。流石は俺にお古を寄越してくるαだ。雰囲気作りはお手の物、か…。
それにしてはヤマダの声が怯えているようにも聞こえるのは何でだろう。
「ただね、思ったんだけど…見せかけだけでは不安だと思うんだ」
「……は?」
「いっそ本当にしてしまった方が、自分の為にもいいと思わないか?」
「はあ?…急に何言ってんだよ…」
雲行きは怪しい。何処か嫌な予感がする。
俺の思考を肯定するように、扉まで迫ってきた中の足音はガチャンと音を立てて部屋の鍵を閉めた。
背筋を、冷たい汗が伝う。
「おい今鍵…何してんだよ……話がちげーぞッ!!」
「あ、そうだ。俺の他にもう一人、お前の秘密を知ってる男が居たよね」
ヤマダの秘密、だと?
ポケットを漁り、偶然入っていた資料室の鍵を握り締めた。誰よりココを使う同僚が今日は居ないので、代わりに管理を任されていたのだ。
「綾木…の事か?」
「そうそう。…でも残念だね、そんな頼みの綱の彼は今日休みなんだ」
「なっ……」
先輩は知っているヤマダの秘密。俺は知らなくて、澄晴も知っている事…。
何だ、どう言う事だ。全然わからない。
ヤマダがここまで狼狽えるって、相当やべえ事なんじゃねえのか。俺が助けてやらなきゃ、もしかして安全が脅かされる域にまで達してしまうんじゃないか。
「もういい離せ!テメェに頼った俺がバカだった。どけよ!」
「いいのか?お前が自らこの部屋を出れば、俺は迷わず社内メールでこのフロア全員にお前の秘密をバラすよ」
「……れだけは…辞めてくれ……っ、やだ!待って、」
あー、くそ。大人しいヤマダを先輩に惚れてるからだなんて勘違いした自分を今直ぐ殴りたい。全然違うじゃねえか。何だかよくわかんねーけど弱み握られて、脅されているだけじゃないか。
それ以上を聞く必要性は感じられなかった。一刻も早くヤマダを先輩から守らないと。
「ーーは大人しく…に噛〜〜…」
がたんと大きく揺れた机の音と、俺が鍵穴を回す音に隠れた最後の先輩の言葉は、残念ながら聞き取ることが出来なかった。
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