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3-安藤

非常階段はボロい扉の先にある。簡単に言えば外だ。 勿論転げ落ちないように金網で覆われてはいるが、シャツしか着てない俺には極寒ってわけ。 つい先程まで暖房の効きすぎた部屋にいたお陰で、多少は耐えられるがそれも時間の問題。 …こんな時、澄晴が居てくれれば椅子に引っ掛けたままのジャケットを持って来てもらうんだけどな。今誰かに連絡入れたらついでに連れていかれるのは確実だ。 「……寒くないか?」 「へーき。作業着って結構厚いし」 「そりゃよかったわ」 もしヤマダが寒いとか言い出しても、俺には掛けてやれるモンすら備わっていない。 「で、あー…その、なんだ。さっきの…三島先輩と、なんかあったの」 「っ、あ……えと…」 あのヤマダが、俺に対してもこの反応とはな…。 そんなに言いたく無いのか。澄晴には教えた秘密ってやつ。……モヤモヤすんな。何だってんだよ。 「お前もαなんだろ…番、居るのかよ…」 「は、番?いや居ねー。ってか作る気もあんまり…」 「あっそ。じゃあテメェみたいな奴には一生言わねえ」 「それが助けてもらった人に対する態度か!」 「…っ」 そこでようやく、俺は相当苛立っていたのだと気付いた。ヤマダに暴言を吐かれる事くらい日常茶飯事だってのに、どうしても悔しさが込み上げた。 澄晴と三島に対する敗北感、あんなに話し掛けたのに全く俺を信用してくれないヤマダの頑なな態度にも。 無駄に高いこんなプライド、捨てられたら楽なのに。それを許せない性格は、簡単には変えられない。 「……もういいよ。安藤、もう俺に関わんな。 俺強いしさ、次はあんなヘマしねぇし大丈夫だから。さっきは助かっ……、ぅわ!」 「あっ──」 手すりにも掴まらず、勢い良く立ち上がったヤマダは俺の横をすり抜けようと階段を駆け上がる。 が、偶然吹いた強い風と、緊張状態が続いたヤマダの足の絡れが同時に襲い、大きくバランスを崩した。 「っぶねー……気をつけろって」 「あ、ぁ…」 咄嗟に転げかけた男を支えられる程度には、凍えた身体が機能してくれて助かった。これぞαの潜在能力…なんてな。 一気に汗かいたわ。しかも俺まで震えてやがる。寒さか焦りか、これはどちらから来るものだろうか。 …いいや、どちらでもないな。 抱き上げた時、思いの外軽すぎるヤマダに違和感を覚えた。線が細くて、作業着に隠れていた華奢さは相当なもので。 そして何より、気のせいだろうと疑いもしなかった“特殊な香り”が…ヤマダから、確かにしたのだ。 「あ、待って…あんど、はなし……」 「……ヤマダ、お前…Ω?」 「っ……あ、」 秘密って…コレかよ。 澄晴が近づくなって言ったのはそう言う事か。 こりゃ確かに、フロア中に知られたらとんでもねぇよ。

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