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3-山田

バレた。気づかれた。どうしよう、最悪だ。よりによって一番バレたらヤバそうな奴に。 どうする。どう切り抜ければいい。考えろ、慌てんな、焦ったらもっと匂いが強くなる。 そもそも、さっきの俺を騙しやがったクソザコのせいだ。あいつが急に近づいて来たから、αの強い匂いに敏感になっていたのだろう。それに加えて安藤の更なる接触。 ここじゃ逃げられない。どれだけ全力で階段を駆け下りたところですぐに追いつかれるし、屋内に逃げ込んだらもっと沢山のαが居る。そんな俺に残された選択は…… 「離せっつってんだろ!」 「ちょ、おい!」 安藤を何とか屋内に戻す事しか無いだろ! さっき怒られたばかりなのに、また俺はこんな態度を取るしかねぇ。 安藤は俺を助けてくれた。普段は呑気にコーヒー買ってその辺フラフラしてる癖に、今日は一度も話しかけて来なかったという事は多分それなりに忙しかったって事だ。それでも俺が引き留めたから、こうしてそばに居てくれて。 それに、綾木も休みだと言っていた。見るからに雑用何でも引き受けますってツラしたアイツが居ないんだから、本当なら今すぐにでも仕事に戻りたい筈だ。 本当は「助けてくれてありがとう」って言いたい。だけど、コイツは触れるだけで俺がΩだと気付くαなんだ。これ以上近付かれる事があれば、その時は俺も身の安全を保障できない。だから、こうするしかねぇんだよ。 ごめん…安藤。 「…俺に構うなって言ってんだよ!テメェはさっさと戻れよ!」 力加減を誤らないよう、一応は控えめに肩を押した。 αの身体能力がどれくらい高いのか経験した事の無い俺にはわからないから。だが、Ωのほんの3割程度の力ではビクともしなかったようで。 「んな状態のお前放っとける訳ねーだろ!…今日風つえーし、距離取れば大丈夫だからさ。落ち着くまで居るよ」 「……絶対、嘘じゃねぇだろうな」 「俺信用なさすぎじゃね?ひでー」 「…、わかった」 安藤は段をいくつか降り、再びその場に腰を下ろす。離れたお陰で、俺の方も少しは呼吸がしやすくなった。 発情期は終わったばかりなのに、どうして突然ヒートのような状態になってしまったのか。αに近づいたからと言うのなら、さっき耐えられたのは不自然だ。αの父さんと弟に平常心で居られるのだって変な話だ。 安藤ってどっかおかしいんじゃねぇのか。無自覚のまま、その辺のαより何倍も強いフェロモンを普段から撒き散らしてる…とか? 「なーヤマダ、なんでその事澄晴は知ってんの?あとさっき三島先輩と何話してたんだよ?なーなー」 「あああーもううるせぇな!人が考え事してる時にテメェは!」 もう一つ、安藤のおかしい所、発見。 コイツは今までと何ら変わりない口調だ。…Ωに対して、態度を変えない珍しいαだった。

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